私には血の繋がりのない弟がいる。六個下の生意気な弟だ。名前は阿含。彼は、今家族だと思っている人間と自分が血が繋がっていないことを知らない。







10歳と16歳






「ねーちゃん!今日はオレと遊ぶ約束してただろ!学校休んでオレと遊べーーーー!!」
「...そんな約束してないだろ」

乳母車に乗って彼が来てから随分と時間が経った。小さくてかわいかった弟は口も性格も悪くなってしまってお姉ちゃんとしては少し悲しい。

「した!昨日オレが『明日土曜だろ』って言ったら『うん』って言って『休みだろ?』って訊いたら『うん』って言って『じゃあ遊べ!』って言ったら『うん』って言った!かわいい弟に嘘つくのか!?うんこ最低だぞ!」
「...雲水だ。昨日そんなことお前と話したか?」
「話した!」
「いつ」
「夜中の二時」
「ばか!十歳は寝てなきゃいけない時間だろ!それに私もその時間寝てただろうが!」

私が怒っても阿含は反省する様子を見せない。それどころか「スカートめくりぃ!」と私のスカートをめくってくる。

「こら!」
「アハハ〜、うんこが怒った〜」
「う・ん・す・い!」
「お姉ちゃんじゃなくていいの?じゃあこれから呼び捨てにしちゃお〜!うんすいうんすい!」
「ぐッ...!お、お姉ちゃんって呼べ」
「ヤダ!うんすい!」
「...もう勝手にしろ」

畳に座って靴下を履く。衣替えをしたから少し短めの靴下だ。だが正直、靴下の長さがちょっとばかし短くなったところで暑さなんてそう大して変わらない。

「あー!なにうんすい靴下履いてんだよ!オレと遊ぶ約束は!?」
「そんなの約束のうちに入らん。それに今日は学校なんだ本当に。登校しなきゃいけないんだ」

立ち上がって朝食を食べにダイニングへ向かうと阿含もついてきた。

「おはよう。あら?阿含も起きたの?珍しいわね。おはよう」

キッチンには母さんがいた。めだまやきとサラダを作ってくれていた。どうやらソーセージもボイルしているようだ。

「おはよう母さん。朝ごはんありがとう」
「かーちゃん!ねーちゃんがオレと遊んでくれない!今日部活ないくせに!」
「!?な、なんでお前がそんなこと知ってるんだよ!」
「昨日手帳みたもん!『部活×!』って赤い字で書いてあった!」
「人の手帳を勝手に見るな!」

朝っぱらからギャンギャンふたりで姉弟喧嘩を始める。それを母さんはいつも通りの優しい笑顔で見ている。そして頃合いを見計らって声をかけてくれるのだ。

「雲水。弟とコミュニケーションもいいけど、もうそろそろ時間が大変なんじゃない?ソーセージもボイルし終わっちゃったわよ」
「あっ!そうだった。ご飯よそらなきゃ。お前はご飯食べる?」
「食べる!大盛りな!かーちゃん、オレソーセージ2本!」
「はいはい」

阿含の食べる場所に箸とご飯を置いてやる。すると母さんがめだまやきとサラダとソーセージを持ってきてくれた。阿含と共にいただきますと手を合わせて食べ始める。


やがて食べ終わるとごちそうさまでしたと手を合わせて立ち上がって洗面所へ向かう。歯ブラシを咥えてまたダイニングに戻り、自分の使った皿を洗う。

「ねーちゃん、オレのも洗って」
「はいはい」

阿含の食器も片してやる。そして阿含も歯を磨き始めた。シャコシャコという小気味良い音が水の音に混じって聞こえてくる。

洗いものを終わらせ、また洗面所に戻りうがいをする。阿含も来てうがいをした。...コイツ、ついてきているな?阿含はコバンザメの如く私にずっと貼りついている。

朝食が終われば、あと残されていることは学校に行くことだけだ。少し憂鬱だが、今日は楽しい行事だからがんばるとしよう。

定期と携帯と財布やハンカチなどの入った鞄を持って玄関に向かう。阿含はやっぱりまだついてきた。

「じゃあ、いってきます」
「...ヤダ」

ローファーを履いた私のスカートを弱々しく握った。

「行くなよ」
「んー、今日は学校だから」
「いっつも学校じゃん。オレ、ひとりぼっちだよ」
「...ごめんな」
「うんこが休みだと思って浮かれてたのバカみたい」

阿含がしょんぼりと俯いた。コイツは意外と正直なヤツだ。本当に私が休みだと思ってもしかしたら結構前から遊んでもらえると思って楽しみにしていたのかもしれない。

ぐず、と鼻をすする音が聞こえた。あ、阿含が泣いてしまう。とっさに私は阿含の小さな手を握った。

「...なに」
「ごめんね」
「...謝んなら遊べ」

小さな手、とは言っても、阿含がこの家に来た時よりも遥かに大きくなった。私の指を握るのでいっぱいいっぱいだった手が今じゃ私の指の第一関節くらいまでの大きさになっている。私の手だってそれなりに大きくなったが、阿含の手はこれからもっと大きくなるだろう。

「阿含」
「っ!な、なんだよ」
「なるべく早く帰ってくるから。な?帰ってきたら存分に遊んでやるから」
「...」
「約束、な?」
「...う、う」

顔を上げて頷こうとした阿含に被せてきたのは能天気な母さんの声だった。

「雲水、そんな泣きそうなかわいい弟置いて学校行っちゃうの?」
「し、仕方ないじゃん」
「なんで?連れてけばいいじゃない。今日って色んな人が来るんでしょ?」

阿含はきょとんとして自分と顔の似てない母さんの顔を見上げた。母さんは良い魔法使いのようににっこり美しく笑うとシリコンのがま口財布を阿含に渡した。

「その中には100円玉が20枚入っています。さて、いくらでしょうか?」
「え、」
「今日ね、雲水文化祭なのよ。阿含、文化祭って知ってる?」

阿含は首をぶんぶんと横に振った。母さんはにこにこしながら「じゃあ文化祭について学んで来なさい」と言った。

「!そ、それって、オレ、うんすいとお出かけ?」
「そういうこと。さ、阿含着替えてきなさい。早くしないと雲水、阿含のこと置いて行っちゃうわよ〜?」
「き、着替えてくる!!」

阿含はダダダダダっと階段をかけ登って行った。私はポカーンとするしかなかった。そして、ハッと我に返り「母さん!」と阿含に聞こえないように慎ましく叫んだ。

「どうしたの?」
「どうしたの?じゃないよ!な、ど、え!?何?何が起こったんだ!?」
「いいじゃない。阿含、ずっと土曜日は家にひとりでいるんだから」
「だからって...!」
「そりゃああの子ももしかしたらお友だちのお家にお邪魔したり、ここに招いたりしてるのかもしれないけど、やっぱり寂しいのよ。大好きなお姉ちゃんと最近遊べてないから。だからたまにはかわいい弟と遊んであげなさい」

あ、そういえば電車賃入れてなかったわね。と母さんは小銭を小さいジップロックに入れた。上の方には〝電車賃〟とマッキーで書いてある。そして二袋用意してある。一袋で片道分の料金らしい。どうやら前々から準備していたようだ。負けたな。

「...って!な、や、やめてよ!私が今日なにやるのか言ったでしょ?!阿含には...阿含だけには見られたくないのに!」
「うんこ?」

いつの間にか着替えてきた阿含が母さんの後ろに立っていた。しまった!と口を抑えた時にはどうやらもう遅かったようで、ばっちり会話の内容が聞こえてしまったらしい。阿含はから笑いをした。

「『うんこって呼ぶな!』でしょ?お姉ちゃん」

阿含は私のローファーよりもかなり小さい靴を履いて「行こうぜ」と私の手を取って力なく言った。

「いってらっしゃ〜い」

母さんの能天気な声がドアを閉める前に聞こえてきた。




空はどんより曇っていた。...傘を持ってくればよかったか?まぁでも折りたたみあるし...あの小さい折りたたみ傘にふたり入るかな。いざとなったらコンビニで買えばいいか・・・

「...」
「...」

すごく、気まずい。いつも元気な阿含が下を向いてだんまりしている。握っている手も冷たい。

「...あー、さっきのはなし、」
「いいよ別に。うんこ、今日オレのこと連れて行けるのに、文化祭っていうの見られたくないからオレに隠してたんでしょ。無理矢理ついてきちゃってごめんね」
「違う。そうじゃないんだ」

阿含はじっとりと私を見上げた。「何が違うんだよ」と悲しそうな目をして私を睨む。

どうしよう、こうなったらいっそ、話してしまおうか。

「あ、あのな、阿含、」
「てか、うんこ電車何時なの?こんなゆっくりしてて間に合う?」

ハッと時計を見れば、時刻は7時15分。まずい。電車出発まであと6分だ。クラスメイトとの最終打ち合わせがあるから絶対に遅刻はできない。朝練がないからと高を括っていたのが裏目に出てしまったらしい。早歩きで行けばギリギリ間に合うだろう。

だが、今日は。しょんぼりと隣を歩く小さな弟を見る。コイツの切符を買わなければならない。そのことをすっかり忘れていた。

「...ッ、阿含。そのがま口の中からジップロックに入った金を一つ出せ」
「え?」
「そしてがま口を私の鞄に入れるから寄越せ。すまん。時間を間違えていた」

阿含はそれでこのピンチに気がついたようでさっさとがま口から一袋ジップロックを取り出し私に財布を差し出した。すぐに財布と自分の携帯を突っ込んだ。

「他に落としそうなもの持ってないか?」
「ハンカチ」
「それもじゃあ仕舞おう」

阿含のハンカチも鞄にぶち込んだ。

「阿含」
「!な、なんだよ」
「お金、絶対落とすなよ。あと、私のコレも持っててくれ」

阿含に定期を渡す。阿含は力強くひとつ頷いてぎゅっと握りしめた。

「ごめんな。お姉ちゃんが馬鹿だったから」
「は!?うんこバカじゃねーし!」
「まあその話もあとだ。阿含、お前まだおんぶ大好きか?」
「!してくれんの!?」
「ああ。時間がないからな」
「ま、まぁ!オレだってもうガキじゃないからそんなおんぶなんて好きじゃねーけど、時間がねーならしかたねぇ、させてやるよ!」
「...感謝する」

ほい、としゃがむと阿含は背中に飛び乗ってきた。久しぶりにおぶった阿含は昔よりも遥かに重くなっていた。...大きくなったなあ。だけどこれもあとでの話だ。私は鞄が阿含に当たらないように右胸に強く固定して持った。

「あ、うんこ。鞄オレが持っといてやるよ。背中側にちょうだい」
「いいのか?」
「うん。てか片手でオレ持たれたら、オレ落ちちゃうよ」

左手だけとか超不安!と阿含は鞄のベルトをしっかり握ってくれた。そして「発射準備OKです!」と敬礼をした。

「よし、いくぞ」
「おー!すっすめーうんこ号!」
「...すまないな。今日はフルスピードだ。あんまり喋るなよ?舌を噛むから」
「え?どういうこと?」

こういうことだよ、と私は思いっ切り走り出した。阿含は「うおーー!!」と声を出している。

「やべえ!!!うんこ号はえぇ!!!!超はえぇ!!!!!!」

喋るなと言ったのに阿含はベラベラ何か喋っている。叱りたいが今はそれどころではない。

時計は見れないが、多分良いペースで走っていると思う。阿含も喜んでいるし、これはこれで良いのかもしれない。



「ついた!」

駅につくと思わずそう叫んだ。ぎょっと近くのおじさんが見てきたが気にしている時間なんて無いので、ぜーはーと肩で息をしながら阿含と共に切符売り場に向かった。時計を見るとあと1分で出発するところだった。

「お金全部入れて、あ!あと子ども料金ボタン押さないと」
「わかってるって」

焦る私と飄々と余裕気な阿含。切符を素早く引き抜くと、走って改札を抜け、阿含の手を取り階段をかけ登った。

「ま、」
「ま!」
「「間に合った!」」

なんとか無事に間に合った。とりあえずひと安心だ。喉が乾いたが、自動販売機の飲みものはリッチなため買わない。

ホームにはまばらに人がちらついていて、少し活気づいて見える。いつもは朝練があるからもっと早い電車に乗るのだが、その時はこんなに人はいないから少し新鮮に見える。

「うんこ!電車来るよ!」
「こら。外でその呼び方はやめろ」
「はぁい」

阿含はご機嫌に電車が来るのを待っている。電車がすごい風と共にやってくると「うぉおおおお!!!!」と興奮を隠し切れない様子で目を輝かせていた。

「ほら、手、繋ぐよ」

はぐれると危ないから。手を出すと阿含は笑ってうん!とまだ小さい手を私の手に絡めてきた。

「段差に気をつけて」
「わかってるって」

阿含は下を見ながら段差をぴょいと跳ねて渡った。

すみっこの席がひとつ空いていた。そこに阿含を座らせて私はつり革を握った。

ドアが閉まると電車は出発し、みるみるうちに景色が変わっていった。阿含は興奮気味にすげー!すげー!と騒いでいた。コイツもまだまだ子どもだな。まあお子さま料金だしな。

すると阿含はいきなり黙りこくって私を見た。最初は向かいの窓から景色を見ているのだと思っていたらそうではなくて、じーーーっと私を黙って見ていた。

「どうした?私の顔に何が付いてるか?」
「米粒ついてるよ」
「うそっ!?」
「うそだよ〜」
「...」
「アハ、うんこ怒った?」
「お・姉・ち・ゃ・ん、な」
「はいはい」
「次その呼び方で呼んだらげんこつだぞ」
「そう言ってうんこ全然げんこつしねーじゃん」
「外ではしない」

電車が止まった。まだまだ学校の最寄りではない。阿含の隣に座っていた人が降りて行ったので、ありがたく席に座る。そして数分間停車するらしい。

「うんこラッキーだね!」
「こら」
「電車動かねーよ?」
「停車するみたいだな。普段この時間の電車に乗らないからわからん」

阿含は動かない景色に飽きたのか、私の頬をつんつんしたり髪の毛を触ってきたりしている。

「あはは、ねーちゃんのほっぺたやわらか」
「ッ!や、やっぱりわかるか?最近2キロ太ったんだ...くそっ、やっぱり夜に菓子をつまむのがよくなかったか。ニキビもでこにできたし、ニキビ予備軍も唇の下にでき始めてるし...」
「えー、うんこ痩せるのー?」
「だからお姉ちゃん!痩せる。やっぱり太っているのは見苦しいからな。過度に痩せ過ぎているのもおかしいが」

よし、今日から体幹1分腕立て腹筋30回始めて、野菜から食べて・・・と具体的なダイエット計画を練り始めると阿含は私の肩に頭を預けて目を閉じた。

「どうした阿含、眠たいか?」
「眠たくないよ」
「じゃあどうした」
「うんこ全然見苦しくないよ」
「は?」

阿含を見ると彼はやっぱり目を閉じていた。

「全然太ってねーし。てかむしろ今の方がマシだし」
「慰めてくれてるのか?」
「うんこ前が痩せすぎてたんだよ。だって飯食う量とか超少なかったし、」
「前より私、食べる量増えたか?」
「オレが増やしてたの。最近米よそってんのも汁物系よそってんのもかーちゃんに飯リクエストしてんのも、誰だと思ってんだよ」
「な!なんでそこまで...」
「だってうんこが全然食わねぇから」

阿含は私を睨み、そして話し続けた。

「どーせうんこセーリフジュンとかだろ。将来不健康な大人になってぶっ倒れるぞ。それじゃなくてもうんこ夜遅くまで勉強してんだから」

夜中ってか明けてくるまで勉強してるとか、まじ狂ってっから。と、ボソリと呟いた。開いた口が塞がらない。コイツはどこまで私のことを見ているんだ。そしてコイツは────

「おい!お前何時まで起きてるんだ!?」
「あ、バレた〜?」
「ま、まさか...夜遅くまでゲームやってるんじゃないだろうな?」
「なわけないじゃん。あんなすぐクリアできちゃうのなんてやんないよ」

...確かにそうだ。コイツはどうやらゲームが得意なようで、どんなゲームでも1時間もあればすぐクリアしてしまう。

「じゃあどうしてそんな夜中まで起きてるんだ」
「勘違いだって。誰も起きてるなんて言ってないよ。ただ夜寝てる時起きちゃうんだよ。そんでトイレとか行くとうんこが勉強してんのがたまに見える」

おったまげた。コイツ...ちょっと不眠症の気があるんじゃないのか?そんな、健全な小学四年生がしょっちゅうしょっちゅう夜中に目なんて覚ますか?普通。

「そ、それ、母さんには言ったか?」
「言うわけないじゃん。別に生活に影響出てねーし。言ったところでなにになんの?病院行ったって無駄なのに」

平然と言ってのける阿含が酷く大人びて見えた。まだ子どもなのに。動いていく窓の外の景色を眺めて笑う、ゲームがちょっと得意なただの小学四年生なのに。

私が阿含を見ているうちに電車は動き出した。阿含は窓の外を眺めている。もちろん笑顔で。

それでこの話は終わった。もっと問うてみたかったが、なんとなく阿含が触れてほしくなさそうだったから。

「...あと二駅で着くぞ、学校に」
「ほんと?」
「ああ。あ、でも、少し歩くけどな」
「えー、どんぐらい?」
「んー、五分くらいかなあ」
「歩くのめんどくさい」
「おんぶしてやるよ」
「うんこ号じゃないと乗らない」
「こら。でも私がおぶるんだから、そのなんちゃら号じゃないのか?」
「スピードが出てなかったらうんこ号じゃないの!わかってないなぁ」

また駅に止まった。人がたくさん乗ってきて、一気に電車の温度が10度ぐらい上がったような気がした。

「んん...」

この、むさ苦しい他人の温度が苦手だ。知っている人なら多少は落ち着くが、こんなにいると息苦しくなってくる。

「...」
「うんこ、大丈夫?うんこしてーの?」
「...大丈夫だ」

ふーーーと息を吐いて平常心、平常心、と心の中で呟く。顔を上げて背筋を伸ばせばなんとなく気分がマシになったような気になる。

「あれ?金剛?」
「え?」

声のした方────阿含の前に座っていた人物を見ると、クラスメイトの池田くんが立っていた。

「あ...お、おはよう」
「おはよっす。顔色悪いけど大丈夫そ?」
「う、うん。大丈夫」

...気まずい。気まずすぎる。彼とはクラスこそ同じではあるが話したことなんて一、二度しかない。席だって近くはないし、委員会も違う...はずだ。私は彼が何委員なのか、そもそも委員会に入っているのかもわからない。私は彼のことを何も知らない。

「...ねーちゃん、コイツだれ?」

少し不機嫌そうに阿含が訝しげに池田くんを睨む。

「こ、こら!コイツとか言わないの!!」
「だってオレ、コイツ知らねーもん」
「お、なになに?金剛の弟?」

池田くんは睨む阿含に微笑みを浮かべてくれた。大人だ。

「ご、ごめんね。そう、私の弟なんだ」
「へぇー、金剛弟いたんだな!実は俺にもいるんだ。なかなか生意気だけど。名前なんていうんだ?」
「自分が先に名乗れよ」
「コラ!!!」

コツンと阿含の頭に拳を落とす。そんな、本当に蚊を殺すよりも弱く落としたはずなのに、阿含は大袈裟に「いってぇ〜〜〜!!」と慎ましく叫んだ。

「すまない!ほんとにすまん、いつもはいい子なんだ...」
「にしし、俺の弟と負けず劣らず生意気なやっちゃなー!でもその通りだよ。普通俺から名乗んねーとなぁ。俺は池田良。お前のねーちゃんと同じクラスなんだぜ!」

池田くんは阿含のことが気に入ったようだった。阿含は相変わらず池田くんを睨んでいるが池田くんは全然気にした様子もなく、それどころか「お前名前は?」とにっかり笑顔で訊いていた。とっても大人だ。

「...阿含」
「阿含ってゆーのか。よろしくな!そういえばなんかスポーツやってる?俺はね、サッカーやってるんだ。こー見えても一年でユニフォーム貰えてんだぜ?」
「へぇ、池田くんってサッカー部なんだね。知らなかった」
「金剛!お前も知らなかったのかよ!!くっそーーー、俺もまだまだだな。ま、でも〝森のオヒメサマ〟にはわからないか」
「池田くん!!!」

阿含を見るとキョトンとしていて「森のオヒメサマ...?」と復唱していた。そして眉間にシワを寄せると「...なにそれ」と呟いた。

「あ、あのな、阿含。それはお前が知らなくても良いというかなんというか...」
「あれ?阿含知らねーのか??おいおい、ちゃんと教えとかなきゃダメだろ〜」
「......ねーちゃん?」

阿含は隠し事や嘘を嫌う。自分はしょっちゅう嘘をつくくせに、私が嘘をついたり、今みたいに、秘密を作ったりするととても怒ってくる。理不尽。

「ち、違うんだ。頼むから話を聞いてくれ...いや、話なんてないが」
「ニシシ、お前のねーちゃん照れてるぞ。まーそのうちわかるよ」

そのあとも不機嫌になりかけた阿含に池田くんがたくさん話しかけてくれたおかげで、阿含の機嫌はなんとか下降しなかった。ありがとうございます、と心の中で感謝して、降りる駅を待った。




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義姉弟ってエモくね?エモい。

ショタおねって最高だよね〜〜^^らぶち


3月2日だって。書くのはいいんですけど書ききってくださいよ

2019.09.14.

about

・当サイトは、女性向け二次創作小説サイトです。
・原作者様、出版社様、関連会社様とは一切無関係です。
・BL(ボーイズラブ)要素を含みます。
・小説の中には、女体化が多く含まれております。
・転載、複製、加工、及び自作発言は絶対にお止めください。