仰天モノの大間違いを抱えちゃった俺、これからどうすればいいんだろう。絶対に誰にも共感されることのない感情が心臓の奥の奥の方で病原体みたいに蠢いている。

来ることのない超展開の未来にすがりついて、何千回と妄想した甘い夢は一体どこに辿り着くんだろうね。自分でもわからないや。

「ねぇ、進。俺はお前へのこの想いをどうしたらいいと思う?」









直線の上にばらまいておいたわかりやすい俺の淡い期待をご丁寧に全てスルーするんだ。スルッとスルーってね。...ここ、笑うとこだぞ。少しくらい引っかかってくれてもいいのにさ、アイツ鈍感っていうかニブチンっいうか...。だから俺がこんなにアプローチしてるのに全く気づいてくれないんだ。まぁそんなところも好きなんだけど。

「はあ...」

この想いが実を結んだとしても賞賛なんて絶対ありゃあしないし、逆に大バッシング・大非難される方が多いだろう。そんなの俺だってわかってる。だけど理解しただけでどうにかなるものではない。理解してどうにかなっているのなら俺だってこんなに悩んじゃいないさ。

「好きなんだけどなあ」
「何が好きなんだ。」
「目の前にいる奴かな」
「?あぁ、なるほど。お前は数学が好きになったのか。良いことだな。」
「違うから!!!!!!」

ほらね?わかりやすい、っていうかこんなモロの告白の言葉すら受け付けてくれないんだ。

「...はあ!」

ため息を吐いたってなにも言ってくれない。けどこれは別に俺のことを心配してないからじゃなくて、進が何と言ったらわからないから黙っているのだ。

「しん...」
「なんだ。」
「俺が好きなのは進だよ...」
「?意味がわからない。お前の好きなものは死んだのか?」
「だっっから違うっつーーーーの!!!!!はぁ!」

目の前の問題集を乱暴に閉じる。進は「もう終わったのか?」と素っ頓狂なことを言っている。俺より頭のいい進が終わってないのに終わるわけないじゃないか。

「...トイレ」
「なるほど。」

なにがなるほどなんだよ...というツッコミは取り敢えず心の中にしまっておく。
ポケットに手を突っ込ん────で歩くと、進に怒られちゃうから、仕方なく行き場のない手をだらだらと振って歩く。

ちらりと進の方を見てみる。少し眉間にシワを寄せてじっとテキストを見つめている。


あぁ、俺、あの数学のテキストになりたい。進の真面目くさった顔をずっと見ていられるから。


なーんてね!

進に見つめてもらえるのは嬉しいけど、やっぱり俺も進を見ていたいし、話をしたいし、アメフトをしたいし。そして叶うのならずっと隣にいたい。

ドアを静かに閉めてトイレへと向かう。見慣れた校舎がなんとなくおセンチな気分にさせる。誰もいない廊下はしんと静まり返っていて、なんだか別世界に来たみたいだ。

トイレは少し離れた所にある。もちろん早歩きで向かう。だって早く用を済ませて早く進の元へ戻りたいもん。進は俺のことを見ないけど、俺は進のことを見る。たくさん見られるんだ。得だ。家に帰ってしまえばもう見られなくなってしまう。それなら今のうちにたくさん見ておきたい。写真もいいけどやっぱり動いている方がいい。俺の目の前で呼吸をしている進を覚えておきたい。まぁ進ならなんでもいいんだけど。

「あっ!桜庭く~ん!!」

そんな変態的なことを考えていると、後ろから声をかけられた。ドキッとして振り返ると...はて?見知らぬ人が走ってきた。

一応この学校で俺に話しかけてきた人のことならなんとなくわかるんだけど、俺はこの娘のことを知らない。ただ単に俺が忘れているだけかな。それとも本当に知らないのか。どっちでもいいけど。

「いきなりごめんね~!これ、進くんに渡しといてくれない?」
「あ、あの...?」
「あれ?君、進くんと仲の良い桜庭くんって人じゃないの??」
「い、いや、進と仲が良い桜庭はたしかに俺だけど...」
「だよね~!で、さ!とにかくそれ、進くんに渡しといて!あ、中覗いちゃダメだよ!そんなら自分で渡せよって話だけどさ~ま、よろしく!」

これ配達料!と、舌をぺろりと出した女の子が描いてある紙に包まれたミルク・キャンディをポイポイと二つ投げてきた。終始笑顔だったミルク・キャンディ少女はひらりと翻り、ポニーテールを揺らしながら走り去ってしまった。

「な、なんだったんだ...?」

キャンディは某有名メーカーのミルク味(ママの味?)のもので、別に怪しいものではなさそうだ。

「久しぶりにみたな~これ」

一つ口に放り込む。優しい甘さが口の中に広がった。純粋においしい。進は食べるだろうか?きっと食べないだろうな。だけどまあ勧めるだけ勧めてみよう。

用を足して進のいる教室に戻る。少し早歩きで。思いのほか時間を使ってしまった。

「し~~~ん!!」

意味もなく大きな声で進のことを呼んでみる。キャンディを舐めていた口から甘い匂いがしている。

進はさっきと変わらずにテキストを睨んでいた。わぁおすごい剣幕!アボカドを初めて出されたあの時の顔に似てる。「これは食えるのか?」って。おもしろかったな~。

ゆっくり進は俺の方を向いた。そしてひとこと。「長かったな。」

「寂しかった?」
「?」
「なんでもないよ...」

今のは自分が悪い。

「そうか。」
「あ、そうだ。はい、これあげる」

ファンシーな紙袋を進に渡す。進ははてなマークを頭に浮かべていた。

「なんだこれは。」
「進に渡してーって言われたよ」
「誰に。」
「え~?んーと......」

そういえば、名前を訊くの忘れてた。(あ、川柳。)
名前くらい訊いておけばよかった。あーあ、こういう時に自分の気の利かなさに後悔する。

「名前くらい訊いておけ。」
「!?」
「何を驚いている。」
「今全く同じ反省を頭の中でしていたところだったので...」
「そうか。」
「スイマセン...」
「特徴は。」
「え?」
「特徴だ。これを渡せと言ってきた奴の。」
「あ!えーっと、ずっと笑顔でポニーテールで...スカートが少し短めだった」
「...?ぽにーてーるとはなんだ。」
「んと、髪の毛を後ろでこう縛ることだよ。俺には短すぎてできないけど...」
「かみをしばる。」
「あー、若菜と同じ髪型だよ」
「.........変態か?」
「なんで!?」
「そのぽにーてーるという髪をして短めのすかーとを履いている男を俺は見たことがない。」
「誰が男っていったよ!!!!!!!!!!!!たしかに女の子だよとも言ってなかったけどさ????????!!!!スカートの時点で女の子って気づけよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「む。女だったのか。」

その発想はなかった、と進はあごに手を当てて考え始めた。そして目を少し大きくさせた。進の癖だ。なにかわかると目を大きく開く。ほんのちょっぴりだけど。

「しまむらだ。」
「は?」
「しまむら。」
「な、なに言ってんの?」
「名前だ。」
「服屋さんの?」
「それを渡した女の名だ。」
「え、あ!島村さん!ってことか!!なるほどね!!!ははぁ、島村さん...」
「この前貸したあれか。理解した。」

そう言って進は紙袋を受け取ると、中身を確認せずにカバンの中にしまった。

「え、何貸したのってか進女の子の友だちいたの!?」
「お前に教える必要は無い。それにアイツは友人ではない。」
「は?」

え、友人ではない?友人ではない?ユウジンデハナイ...?ということは・・・

「え!え!え!!!どういうこと!!!????」
「うるさいぞ。早く始めろ。何の為に部活が休みになっていると思っているんだ。」
「ええええっ!そりゃないよ進!!え!だって友人ではないって!えっ!えぇっ!!」

進は何も答えてくれなかった。持参したのであろう耳栓を耳の穴にねじ込み問題集に目を向けた。かわいそうな俺。

「はぁ...」

仕方がない。勉強を始めるか。

「しん」

名前を呼んでみたが聞こえていないのか、進はピクリとも動かなかった。

「............スキダヨー」

...何の反応もなかった。はい、諦めましょう。

俺は全く手をつけてなかった数学の問題集を開き、うんうん頭を捻り始めた。...進の姿を盗み見ながら。





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桜庭くん進さんを見る時は視力が5.0になる。

ヒ/ト/リ/エの後/天/症/の/バ/ッ/ク/ビ/ー/トをすごく意識して書いてます。桜庭くんは進さん限定ホモ。タイトル詐欺感


これを書いたのが昨年の8月5日だそうです。時間はやたらと駆け足に去っていくから困る(´・_・`)

2019.09.14.

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