気だるい朝からおはようさんの日も、今日ばっかりはスカッと爽やかに目が覚めた。いつもより二時間くらい早く起きて、急いで学校の支度をする。────片手に携帯を持ちながら。

「ねえ...神前起きてる?起きてないよね...誰か起こしてよ...」
『そんなことよか大田原さん大丈夫なのかよ...高見さんに任せてるとはいえすげー不安なんだが...』
『いや、大丈夫っぽい...今大田原さんからメッセージ来てた...ただ高見さんと連絡取れないらしい...わんちゃん高見さん寝坊説...』
「ええっ!ほんとかよ!?」
『ばか桜庭!いきなりでっけえ声出すんじゃねえ!』
『頂おめえもだよ...まだみんな寝てんだから声控えろよな...神前もうとっくに起きて今日用のバラ愛でてるって...』
『そういえば猪狩くん起きてないよね。ちょっとお家行ってみるね。近所だし』
「ありがとう若菜たすかる...ちょっと俺高見さんに電話してみる...とにかくみんな五時四十五分に王城高校集合だからな?高校だぞ?もっかい見てない奴のために送っとくけど」
『大田原さんに誰か電話しとけ?絶対あの人間違える』
『じゃあ俺してくる。誰か個人でも言っとけよ』
「よろしく...じゃあ俺も落ちるね」

グループ通話を切り、もう一度グループに〝本日五時四十五分王城高校集合!!!〟と送って高見さんに電話をする。高見さんは意外とすぐ出てきて『どうした桜庭?』とのんきに歯を磨いていた。

「あ...よかった。高見さん起きてた」
『ああ、ごめんな。大田原からスタンプたくさん送られてきてた』
「じゃあ高見さんくれぐれも大田原さんのこと頼みますね。くれぐれも。王城高校ですよ」
『大丈夫だ。一緒に行こうと思ってたから』
「なら安心です...よろしくお願いします」

電話を切って少しひと息ついた。そしてまたグループに戻り今度は〝進の誕プレ絶対忘れんなよ!!!!〟と念を入れて送った。すると、一斉に『持って行くに決まってんだろ』『舐めてんのかアホ』『そういうお前が忘れんなよな』『これだからアイドル(笑)は』と散々な罵倒が返ってきた。酷い。

「...さて、行くか!」

一番乗りになってやる!靴ひもを結んでそう決心し、ひとり暮らしのマンションの鍵をかけて、エレベーターに向かった。







文明というものは俺たちと同じように日々進歩している。その恩恵を受け、人間はこう便利な生活を送れているというわけだ。

「それにしても便利な時代になったよな〜。ま、便利になったとしても、活用しないバカもいるけどな〜!」
「ばっはっは!どうした高見!機嫌が良さそうだな!」

高見さんは笑顔で大田原さんのことを叩いた。...どうやら機嫌が悪いようだ。無理もない。大方、まだ準備が整っていないうちに大田原さんが「俺はもう行く!」と言ったのであろう。これはまだ始発の電車だ。この時間に行ったってまだ誰もいないのに。

「にしても、桜庭がこの電車に乗って来るとは思わなかったよ。さすが、エースの相棒は愛が違いますなあ」
「ハハ、もう一番乗りしてやろうかと思ったんですけど...」
「まあ同率一位ってことでいいじゃないか。まあでも本来はお前の勝ちだったんだぞ?はあ!」
「よし!高見が口から出したということは!俺が尻から出す番だな!フン!」

バフッ!という音と共に電車が一瞬ガタガタっ!と揺れた。...怖い。





「え、9日休みになった?」
「ああ。なんか人工芝が腐ったんだって。だから一軍は休み」

二軍以下はあるんだと。まあ前のスプリンクラー故障の時は俺たち練習あったし。なんかそういう休みってローテーション制っぽいな。そんな話を進が来る前、学食で釣目と話していた。

「...それほんと?」
「ああ。多分もうそろそろらいんで回ってくると思うぜ?進に伝えとかなきゃな」

進はLINEをやっていない。というか、携帯を(ガラケーすら!)持っていない。だから、メンバーの誰か(主に俺)が進にそういった事務連絡はすることになっている。

「9日、か」
「そういえば進の誕生日だよな。プレゼント何にすっか決めた?」
「うーん...昨年はダンベルと普段着で、一昨年はダンベルとアナログ体重計で、その前はダンベルとロケでプロテイン工場行ったから、そこで買ったプロテインめろめろメロン風味・初恋のいちご風味・明日への種モミ風味ってのをあげた...いや、ベリベリベリー風味だったかな?んでその前が...」
「すとーーーっぷ!ストップストップ!!お前なんちゅーモン渡してんだ!最初の三つくらいまでは良かったのに!!あと毎年ダンベルあげてんのかよ!俺もだわ!!!」
「え!?ほんとに?」
「ああ。しかも頂も薬丸も井口も...多分ほとんどの奴が渡してるぜ」
「ち、ちなみに反応は...?」
「超破顔してダンベルぺろぺろ舐めてたな」
「うぇっ!?う、嘘だろ!?」
「嘘だよ。何信じてんだ。ま、ダンベル以外だと若菜の野菜かな?昨年はとうもろこし50本進の家に送ったらしいぜ?売れ残りかな」
「そんなわけないだろ!」

やいのやいの騒いでいるうちに進が来てしまい、その話はあやむやになった。そしてその日の夜、進に9日練習が休みになったことを伝えるのを忘れたことに気がついて、はっとグッドなアイディアを思いついた。

王城(高校の)2年のグループを数億年ぶりに開いて、こう発言してみたのである。

〝9日進の誕生日パーティーしない?〟と。







思いのほか反響が良く、別の大学行った奴も他の部活の奴もみんなやろうぜ!ということになったので、プレゼント持ち込みで開催することになった。場所、どこにする?と考えた結果、我が愛しの母校・王城高校でやることになり、当時特に仲の良かった部長の大田原さんと司令塔高見さんを呼ぶことになった。あと進信者二番手(一番は俺だから。干徳さんじゃないから)の後輩猪狩を誘った。若菜ももちろんいきます!と良い返事。そしたら若菜が「監督に許可取ったんですけど、そしたら監督が私の家の野菜と知り合いのお肉屋さんからお肉を買って、BBQしないか?と仰ってました」と、敏腕マネージャーの片鱗を見せつけ、皆で大盛り上がりとなった。

そして来たる本日7月9日の進清十郎バースデイ・パーティーを開催することになったのである。









中学からだから...およそ六年間通い続けた懐かしい駅についた。文明が進んでも、駅はそう簡単には変わらない。

「つきましたね!あ、おーい!高見さん!起きてください!!」
「ドアが閉まってしまう!俺が運んで行ってやる!」

大田原さんは高見さんをひょいと俵かつぎして電車を出た。そして高見さんをホームのコンクリートにボン!と降ろし「起きろ高見ィィィィッ!!」とバシバシ叩いていた。あんなにやられても顔を青くするだけで背骨を粉砕骨折しない高見さんってすごい!さすが俺の尊敬する先輩だ。

「でもやっぱり、この時間じゃ全然人いませんね」
「そうだな。やっぱり早すぎたんだよな。なー大田原」
「これくらいが丁度いいだろ!なはははは!!!」
「だめだこりゃ...」

高校にはすぐついた。何故か校門は少し開いていて、そのすき間から入って、BBQをやるという第二グラウンドへ向かった。そこは昔サッカー部が使っていたグラウンドで、今じゃあ滅多に使われない。使われるとしたら、文化祭のカラオケ大会やラムネ一気飲み大会、腕相撲大会だけだ。腕相撲大会中学生の部・高校生の部、両方で進は毎年(つまり六年連続)優勝していた。あの(この)大田原さんにも勝ったのだ。すごい。

そんな第二グラウンドに向かっている最中、一つの影がなにやらせっせこせっせこ動いていた。近づくにつれ、懐かしい面影が見えてきた。...どうやら、俺たちは一番ではなかったらしい。

「...!ふん、早いな。まあ、三十分前行動なんぞ、王城高校では当たり前だがな」
「あ...!か、」
「「「監督!!!!」」」

相変わらずの強面で、監督...ショーグンはニヤリと笑った。








「それそっち運べー」
「あ。冷蔵庫まだコンセント抜いといていいぞ」
「椅子何脚必要だっけ?」

各々が集合時間の五時四十五分よりも前に来て準備をスタートした。ゼロからBBQセットを組み立てたり椅子を出したりするのは大変だった。が、ショーグンが先に炭などを入れておいてくれたおかげで、なんとか良いペースで準備ができている。

「監督!ほんとにありがとうございます!!」
「さすが監督!」
「優しい監督!」
「娘さんの結婚式で泣いちゃった監督!」
「誰だ今言った奴!出てこい!」

しかも良い雰囲気だ。朝早くに集合させられて、みんな不機嫌かと思ったら、意外とそうでもないらしい。でも確かに高校の頃もそうだった。朝早くても夜遅くてもみんなの仲が良い...それが王城の良いところだった。

そんな懐かしい気分に浸っていると、誰かがそういえば、と声を上げた。

「なあおい、ところで誰が進のこと呼びに行くんだよ」
「え?ああそれは携帯で...」

はたと気づいてしまった。あれ、進そういえば機械オンチだったんだよなあ。携帯持ってないよなあ。だから俺が呼びに行くことになってて............ん?

「あああああああああああああああああッッッ!!!!!!進呼びに行かなくちゃ!!!」
「「「「「さくらば!!!!!!!」」」」」

ショーグンに馬鹿者!とゲンコツを落とされた。久々のそれは目から星が出るくらい痛かった。

「すぐに連れてこい!!!!アイツ学校行っちまうぞ!?」
「サプライズってことでなんも伝えないーーって言ったのお前じゃないか!!!今日練習無いことアイツ知らねえぞ!」
「ちょうどランニングから帰ってきたくらいだろ!さっさと行け!そんでお前は名前をさくらばからさくらばかに変えてこい!!!」
「ご、ごめんなさいいいい!!!」

進が出すスピードには遥かに及ばないが、駅まで猛ダッシュをして電車に飛び乗り、進の家の最寄りに向かった。







進の家につくと、進にそっくりのお母さんが着物をきて箒で外を掃いていた。
息ぜえぜえ汗だくだくの俺の姿を見るなり、「あら...!」と進なら絶対にしない笑顔を見せてくれた。

「お、おはようございます...朝早くにすいません...」
「桜庭くん!久しぶりね!ふふ、男前になっちゃって。清十郎ね?ちょっと待ってて。なんかさっきおじいちゃまに呼ばれてたのよ」

...進の家に行くたびに思う。本当にここの母子は似ていないな、と。こんな底抜けに明るい母親からどうやったら進が生まれてくるんだ。

「清十郎になんの用事か訊いてもいいかしら?」
「は、えーっと、ほら。今日進の誕生日じゃないですか。だからサプライズに高校のメンツで進を祝おうってことになって...」
「清十郎の、誕生日...?」

せいじゅうろうの、たんじょうび

もう一度自分の口で復唱して、進のお母さんは唇に手を当てた。...思い出した。そういえば顔ともう一つ似ているところがあった。それはこの母子、物凄く天然だってこと...。

「まァーーーッ!!!清十郎誕生日じゃないの!!清十郎?おじいちゃまの話終わったでしょーーッ?早く来なさーい!!」

デカい広い家に進のお母さんの声が響きあって、反響する。進はいつもの真面目くさった顔で出てきた。エナメルバッグを持って。

「清十郎今日誕生日だったわね!おめでとう〜〜!!」
「ありがとうございます。祖父からも言葉を頂いて参りました。」
「うふ♡もう清十郎ってば〜!今日くらい甘えたっていいのよ♡」

そう言って進のお母さんは進のことを少し屈ませて、進の頬にキスをした。俺は驚きすぎて悲鳴も上げられなかったが、進は一切表情を変えず「ありがとうございます。」と言った。絶対思ってないだろ。いやでもこんな美人にキスされたら俺は嬉し・・・

「うふふ、いってらっしゃい!桜庭くんにもしてあげようか?」
「いっ!いえ!!進にボコられちゃうので!お気持ちだけ受け取っておきます!」
「あらあら冗談よ。私の唇はお父さんと清十郎とパパだけのものだから♡」

じゃあね〜!と進のお母さんは家の奥へ消えていった。粉雪のような風貌をしていて嵐のような人だ。進家はすごいや...。

「桜庭おはよう。」
「あ、おはよう進!」
「どうした。急ぎの用事か。」
「えとね、実は今日芝生使えなくてお休みになっちゃったの。だからさ、ちょっと遊び行こうよ」
「だがトレーニングを、」
「大丈夫大丈夫!できるところだからさ!じゃあ行こ!!」
「...ああ。」

進は怪しんでいるが、そんな素振りに一切気づかないように俺は駅に向かう。そして電車に乗り、懐かしい光景を古い友人と共に見ながら目的地へと進む。

「...む。ここは、」
「ささ、降りて降りて!もうみんな待ってるよ」
「む、むむ...?」

珍しく煮え切らない表情を浮かべ、これまた懐かしい道をふたりで歩く。そしてとうとう懐かしの母校へと辿りついた。

「...」
「ん?どした進。入るよ?」
「...久しいな。やはりここはいい所だ。」
「...うん、そうだね。とってもいいところだね」

しばらくふたりでじっと母校の雰囲気を楽しんでいた。が、俺の胸ポケットに入っている携帯が振動し始めた。見ると大田原さんからスタンプが大量に送られていた。慌ててLINEを開くと、早く来い!とメッセージがグループに届いていた。

「...よし、進行こっか」
「む。何を言っている。無断で入っては・・・」
「大丈夫大丈夫!もう許可取ってあるから!!」

よーし進!第二グラウンドまで競走だ!そう叫んでいきなりダッシュする。すると後ろから「卑怯な!」と進が追いかけてくる。俺も必死に逃げていたのだが、グラウンドにつく頃には進に追いつかれていた。

「いきなり走るな、転ぶぞ。...む!」
「へへ、俺がいきなり走っちゃうとか驚いた?だけど今驚いたのはそれじゃないよね」

ポケットに忍ばせておいたクラッカーを手に取る。ニヤニヤしていたり、待ちくたびれたぜという表情をしているメンバーに目配せをして、そして俺は叫んだ。

「7月9日!王城高校出身進清十郎!お誕生日!!「「「「おめでとーーーーー!!!!!」」」」」


パン!パン!とクラッカーの軽い音が鳴った。そして一斉に進に駆け寄って、進をみんなで持ち上げた。

「じゃあ行くぞう!胴上げじゃああああ!!!せーの!」

おめでとう!おめでとう!おめでとう!おめでとう!!!!!!
俺たちは必死に進を上げた。ちらりと横目で見ると、ショーグンも笑っている。

「(...あ!)」

俺は見てしまった。胴上げされた進を受け止めた時。

「(進、笑ってた...笑ってる!!)」

その表情はすぐにいつも通りの仏頂面に戻ってしまったが、俺は確かに見た。

嬉しそうに瞬きをして、小声で「ありがとうございます。」と呟いた、彼の母親そっくりの破顔笑顔を浮かべている、進を。

「誕生日おめでとう、進」

俺は誰にも聞こえないようにそっと呟いた。だけど本日の主役は気づいたようで、そっと微笑みを返してくれた。























































「てかさ、なんでみんなさっきと格好違うの?スニーカーになってるし」
「桜庭。お前は本当にわかっていない!お前もこれに着替えるんだ!」
「え、あ!しょ、か、監督?これ、って...」
「進のも用意しておいたが、進はもう運動着だな。桜庭!早く着ろ!」
「えっ!?な、ど、どうして?」
「肉も野菜もまだまだ届くのは先だ!よし!全員位置につけ!これよりロードワークを始めるッ!進!覚悟はできているな!」
「もちろんです。監督のロードワークをまたできるなんて最高です。ありがとうございます。」
「うむ。これが俺からお前へのプレゼントだ!他のメンバーにもおまけにプレゼントだ!やるぞーーーッ!」
「「「「オス!!!」」」」
「えっちょ、ま、え?ほ、ほんとにやるの?!ねえ!!!」
「桜庭、良いこと教えてやるよ。...これ知らなかったの、お前と進だけ」
「いやー、体力戻すのキツかったわー」
「ま、現役ん頃みたいに、さくっとがっつり頑張ろうぜ!」
「それでは始める!よーい!!」

ピーーーーッ!若菜の笛で懐かしの地獄のロードワークが始まった。進はすぐさまトップに躍り出た。俺も負けてられない。負けてられないが・・・

「どうしてこうなるの〜〜〜!!!!!」
「桜庭!真面目にやれ。」
「し〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!!!!」









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進さんの誕生日に書いたやつ
今思い出したけどこれ投稿しなかったの絵文字使えないからだ悲しい

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