これからもきっと同じように好きって言っていくんだけど。なんとなくじゃダメかなって最近思ってて、ちゃんと意味を持たせて言おうって決めたんだ。

だからさ、これからもずっと同じように俺の『好き』を隣で聞いてほしいんだ。そんであわよくば俺にも『好き』を返してくれたら嬉しいな。なんて。そんなこと言えないけど。

「進」

君が先に寝ている布団になるべく音を立てないように潜り込み、こっちを向いて目を閉じている君の名前を呼んでみる。もちろん寝息しか返ってこなくてちょっぴり寂しかったけど、でも隣で君と寝られるのが嬉しくて心の中で笑った。

「おやすみ」

意気地無しの俺は君が寝ているっていうのにおデコにしかキスできない。君の白い額への口づけだけでも俺の心臓は大袈裟なくらい音を立てて、顔がとんでもなく熱くなる。それに、君のそのお手入れもしないのにつやつやとした紅い唇にキスをしてしまったら、もう自分を制御できなくなりそうで、止まらなくなりそうで怖い。

俺は君になるべく負担をかけたくないんだ。無理矢理君の隣に俺を置いてくれる優しい君に。俺の言うことに決して首を横に振らない君に。

「だいすきだよ」

もう一度、今度は勇気をだして瞳の上にキスを落とした。そしてすぐ目を閉じる。睡魔はまぶたを閉じるのと同じぐらいすぐにやってきて、進にキスした余韻を楽しむまでにもいかず、微睡みに攫われてしまった。良い夢が、否、進と同じ夢が見られればいいな、なんてのぼせながら。進と眠っていても一緒にいたい。進とずっと共にいたい。そんなことはやっぱり言えないけど。


  ◈  ◇  ◈


俺の一日はカーテンを開ける音で始まる。

カラカラと小気味良い音で目が覚める。その音を聞けばたとえどれだけ眠たくても、良い夢を見ていても起きる。だけど目を閉じたままでいる。そして「朝だぞ桜庭。」という愛おしい声が耳に入ってからゆっくり目を開ける。進は俺の意識が覚醒するまで傍にいてくれる。だから俺はなるべく長く目を閉じている。少しでも長く進といたいから。

「おはよう。」
「ん...おはよう、しん」

おはようの声が聞こえれば起きたのだろうと進は判断するのか、俺がおはようと言えば彼女はさっさと立ち上がり部屋を出て行ってしまう。まってよー、と彼女を追いかければ「甘ったれるな。」と言いながらも止まってくれる。なんだかんだ進は俺に甘い。そして今日はどんより曇りdayだ。洗濯物かわくかなあ。なんとなく憂鬱だ。

「朝食は何が良い。」
「ん~、今日はパンの気分」
「トーストで良いか。」
「トーストがいいなぁ」
「わかった。支度を済ませてこい。」

そして進はキッチンへ消える。きっとパンを焼いてくれているんだ。あとお弁当の用意。今日のお弁当はなにかな?たまごやきは入ってるかな。デザートはなんだろう。進の作るお弁当はかわいい。意外と。彩りが良いのだ。しかもバランスも完璧だ。それに言わずもがな美味しい。

顔を洗って歯を磨いてまた顔を洗う。顔は二回洗わないと気が済まないのだ。一回だと洗った気がしない。

適当に服を着て腕時計をつける。そして充電100%の携帯とモバイルバッテリーと財布をリュックの中に放り込む。そして今日の講義のテキストも。練習着は全部学校だ。

「桜庭。パンが焼けた。」
「ありがと。今行くね」
「それと弁当と水筒だ。」
「さんきゅー」

進から受け取った弁当もリュックの中に入れる。そしてリュックを一旦玄関に置きに行き、キッチンへ向かった。

進は料理で使ったフライパン諸々の調理器具を洗っていた。

「あ!洗いものくらい俺がやるよ!」
「大丈夫だ。数もあまり無かった。それより今日の天気予報を見てくれ。」
「でっ、でも...」
「もうこのフライパンで最後だ。先に席に着いていろ。」
「...わかった。ごめんね」
「?何故謝る。」
「て、手伝えなくて...」
「別に気にしていない。早く食べるぞ。」
「...うん」

少ししょげながら木製の椅子に座った。目の前には相変わらず美味そうな食事が並んでいる。進はまだこない。何故か冷蔵庫の前に立っている。何を見てるのだろう。ここからじゃさっぱり検討もつかない。とりあえずテレビをつけて天気予報を確認。むむ、どうやら今日は正午頃に少しにわか雨が降るようだ。なるほど。今日は室内でお昼ご飯を食べよう。どこがいいだろう。あとで進と要相談だ。

「遅くなった。頂こう。」
「進、今日もこんなに美味しそうな朝ごはんありがとうございます。いただきます!」
「いただきます。」

進の作った美味しいご飯を食べちゃえば、さっきまでなにかを悩んでいたような気がしたが忘れてしまった。そして俺は進が焼いてくれたトーストに手を伸ばす。

「待て桜庭。」
「ん?どうしたの?」
「...すまない。頼みたいことがあるんだ。」
「え、なにそんな神妙な顔して」
「これを...食べてくれないか。」

進はすくっと立ち上がると冷蔵庫に向かった。そしてなにやら瓶を持ってきた。中にはなにか黒いものがぎっしりと詰まっている。

「...なに、コレ?」
「ブルーベリージャムだ。」
「ジャム?え!進が作ったの!?」
「美味いかわからないが...食べて、くれるか。」
「なに言ってんの!!食べるに決まってるでしょ!!!」

進から瓶を受け取りそれを開けた。カパッという良い音が鳴った。そしてジャム特有のふわんとした甘い香りが鼻腔と食欲をくすぐる。

「やばい、めっちゃうまそう...!」
「不味かった時の言い訳をするわけではないが、ジャムなんて生まれて初めて作った。だから本当に味の保証はない。」
「大丈夫だって!だってさ、こんなに良い匂いしてるのにおいしくないわけないじゃん!」

おずおずと差し出されたスプーンを受け取る。進は本当に不安なようで難しい顔をしていた。ああやばい。めちゃめちゃかわいい。そんでたまらなく愛おしい。どのくらいかって、そりゃあもう身体中にキスしたいくらい。そんなこと言えないけど。

たっぷりとまんべんなくトーストにジャムを塗っていく。芳ばしいトーストの香りとブルーベリーの甘酸っぱい匂いがミックスして食欲をさらに掻き立てる。涎が口の中に溜まってきたので「いただきます」と小声で言ってかぶりつく。

「...!!!」
「美味いか。」
「お、おいしいなんてレベルを超越してるよ!やばい!うますぎる!!!!え、もうこれ俺市販で売ってるやつ食べられない。やだ、絶品」
「む。それは困るな。だが、喜んでくれたようでなによりだ。」

進も俺と同じようにたっぷりトーストにブルーベリー・ジャムを塗って食べた。うんうんと二回頷いていた。きっと満足したのだろう。

「あぁ、だから進今日はお米じゃなかったんだね」
「うむ。ジャムを片付けてしまわなければならないからな。」
「片付けるって...そんな風に言わなくたって。俺、このジャムなら毎日食べられるよ」
「本当か。」
「もちろんほんとだよ!」

進はほっとしたように「ならよかった。」と目を伏せた。綺麗だな、と思いながらトーストにかじりつく。進の一挙一動がすごく丹念に洗練されているように見える。もちろんそんなこと進は意識していないだろうけど。

進は面を上げるとまた少し不安そうに「実は、」と言った。すかさず「どうしたの?」と訊けば、やっぱりしどろもどろ口を開き始める。

「あと六瓶あるんだ。同じサイズのものが。」
「...え」
「毎日でも食べられるというのならそうしてもらえると助かる。」
「そ、それ、腐っちゃわない?」
「砂糖をかなり使っているからきっと大丈夫だとは思うが...カビてしまうかもしれない。」
「う~~~ん......ちなみにどんくらいでカビちゃうの?」
「わからない。それに、食べ切れないようであれば誰かにあげてしまっても良いと思っている。」
「え!」
「?」
「あ、あぁ、なんでもないよ。ハハ...」

小早川に訊いてみるか、と呟く進はやっぱり全く俺の気持ちを汲み取ってくれない。そりゃあ口に出さなきゃこんなめんどくさい気持ち、わかるわけないんだけど。

「あとで炎馬大に持って行くとしよう。」
「...」

進の作ったものを他の人に食べさせたくないっていうこのくだらない独占欲。前付き合っていた女の子たちには「春人くんって私が他の男と話してたり出かけてたりしても全然嫉妬してくれないのね!」とよく振られていた。だって興味がなかったんだ。元からあの女の子たちは俺の本質を見て好きになってくれたわけじゃないし。どうせ顔。それかモデルと付き合っているっていうレッテルが欲しかっただけ。そんな子たちが浮気(?)的なことをしていたって、何か特別な感情を抱けるはずがなかった。
だけどやっぱり進は特別だ。進が好きだって気づいた時にはもう「好き」と「ずっと一緒にいたい」という想いを伝えていたし、「よくわからないが、桜庭と共にいられるのならそれで良い。」と快く(?)OKしてくれた。だけどきっと、否確実に進は俺のことを恋愛対象としては見ていない。友だちの延長くらいにしか考えていない。多分進に別れようって言ったら彼女は素直に頷くだろう。それが俺は一等怖い。なんの躊躇もなく進に「わかった。別れよう。」なんて言われたら俺もう舌噛み切って海に飛び込んじゃう。そういう俺のつまらない馬鹿な気持ちを進はわかってくれない。

「ごちそうさま。今日もおいしかったよ!」
「それならば良かった。」

進はきちんと三十回噛んでから飲み込むので食べるのが非常にゆっくりだ。なので、先に自分の食べ終わった皿をかたしておく。そして歯を磨く、顔を洗う。これらが終わる頃には進も朝食を完食しているので、進のお皿をかたづける。朝早く起きてご飯を作ってくれる進へのせめてものお礼である。進のところへ向かうと、やはり進は食べ終わっていて「ごちそうさま。」と手を合わせているところだった。

「あ」

進の口元にジャムがついている。そうか、進はジャムなんて滅多に食べないからジャムパンを食べるのがへたくそなんだな。いつもならきっちり綺麗に食べる進が、おちゃめにジャムなんて付けてるのが少しおかしい。

「どうした。」
「進、ジャムついてるよ」
「む。どこだ。」

唇の横だよ、と言えば逆側をぺろっと舐めた。

違うよそっちじゃなくて

そう言えばよかったのに、何を思ったのか俺はなぜか進の両頬を手で包み込んでくいと上を向かせた。

「?さくら、」

〝ば〟の声を聞く前にぺろりとジャムを舐めた。だけどもうすでに乾いていて、なかなかジャムは舐めても落ちない。こびりついたジャムを必死にぺろぺろ舐める。ようやく綺麗になった!とはっと我に帰れば顔を真っ赤っかにしている進とばっちり目が合った。

...え、待って。俺、今、何をした?


「あああああああッッ!!ほんとにごめん!!ごめんねえええええ!!!!」

ペコペコ主務時代(?)のセナくんのように謝り倒した。進は口をポカンと開けてこっちを見ている。こんな進のアホ面は滅多に見られない。レアだな。写真撮っておきたいな。と、反省は十二分にしているのに変なことを考えてしまう。
進は我に返ると何か言いたそうに口をぱくぱく動かし始めたが、何も言葉が見つからないのかもじもじしている。ああ、なんていじらしくてかわいいんだろう。

「っ、...され慣れていないから、困る。」

少し赤くなった頬をさっき俺がやったように両手で抑え進は俯いた。俺も今さら自分のした行為がすごく恥ずかしいものだったと痛く感じ、進と同じように俯いてしゃがみこむ。

「...」
「...」

少し無言の時間が流れた。まずい。俺はなんと口を開いたらいいのか必死こいて悩み考えまくった。一応コミュニケーション能力は進よりもあるはずだ。だから、だからなにか話さないと。

「し、進にも、そういう恥ずかしいとかっていう気持ち、あるんだね」

...なんかすっごく失礼なことを言っている気がする。だけど進は特に気にした様子もなく、ただ淡々と答えた。

「何を言っている。私だって人間だからそういう感情くらいある。」

進はやはり両頬を手で抑えながら言った。白い進の耳がピンクに染っていてすごく愛らしい。

「だが、この程度で照れるなんていうことはなかった。」

頬を抑えていた手を膝において、進はしゃがんでいる俺のことを見おろした。俺と目を合わせると淑やかにふっと口角を上げた。

「きっと、これも、私がお前に恋をしているからなんだろうな。」

進の長い髪がさらりと揺れた。長くなったなあ。俺と付き合う前はベリーショートだったのに、俺が髪の長い進も見てみたいなって言ったらわかったと頷いて、アメフトをするのに邪魔な筈なのに、伸ばしてくれた。時々枝毛を切ったりするけれど、今の進は肩にかかるくらいの長さになっている。
触れてみれば進は少し驚いたように目を開いた。が、すぐに目を細めて「どうした。」と訊いてきた。きっと答えなんて求めていないのだろう。なんとなくそれがわかった。そしてなんだか愛おしくて愛おしくてたまらない。いつもそうだけど、今日は格段に。


「ねえ進、俺、進が好きだ」
「?いきなりどうしたんだ。」
「俺、ね。ほんとにほんとに進が好きだよ。俺の隣にいてくれてありがとう」
「む、むむ...?」
「そんですごく今さらだけど、髪を伸ばしてくれてありがとう。とっても似合ってるよ。ずっと言い損ねてたけど」

さっきとは違う、温かい静寂が訪れた。進は口を開いては閉じを繰り返し、何を言うか言葉を探しているみたいだった。

「...改めてそうかしこまって言われると、少々恥ずかしいものだな。」

進は長くなった自分の髪を緩く触った。そして耳にかけながら

「だが、お前にそう言われて伸ばしていた甲斐があったと思えた。前に桜庭が髪を伸ばした私が見たいと言うから伸ばしていたのに、お前はなんとも言ってくれなかった。」
「うっ...ご、ごめん」
「でも、今までずっと似合っていると思われていたのなら、嬉しい。」

もう少し早く言ってくれれば良かったのだがな。と進は唇を尖らせた。素直な進が珍しくてぷくくと笑ってしまった。進は睨んできた。




言いたかったことを伝えてみよう。いつも進には甘えてばっかりだけど、今日も俺の初めてのわがままを聞いてもらおう。そして、無欲な進のわがままもたくさん聞こう。いや聞くんだ。これから。まだ一日は始まったばかりなのだから。

「ねぇ、進。俺、腐らせたりカビさせたりしないからさ、進のジャム全部俺が食べたい」
「?」
「進の作ったもの、他の人にあげたくないよ」

ダメかな?と見上げれば、進はぷいとそっぽを向いて「...勝手にしろ。」と言った。照れているんだ。かわいい。とりあえずへらりと笑ってみた。進もふ、と笑った。なんだか今日は本当に、えらくグッドなモーニングだ。



少し曇りかけていた空が若干晴れてきたような気がした。どうやら天気予報ははずれのようだ。






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桜→進♀だとらばちゃんが思い込んでる同棲桜→←進♀
進さんもらばくんのこと好きだけど、ただ表に出せないだけなんだよ;

D/E/C/O/*/2/7さんのベ/リ/ー/ブ/ル/ーをイメージして。

この話を書き始めたのが9月16日。季節も変わりました。明日からってかあと1分で3月です。


H31.2.28.

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