どうせこの恋は叶わない。から、俺は女になってしまいたい。










「あの、桜庭くん...」

今日も今日とて現れたるは通算3925回目の薄っぺらな言葉で、心苦しく思いつつ「ごめん」と呟き去る。その後大抵目の前にいた人は泣き出してしまう。それは今回も同じなようで。俺は朝早くからそんな顔をさせてしまう自分が本当に嫌なのだが、結局最後には同じ顔をさせるのだから、この選択は決して間違えではないと思っている。

自己嫌悪とポジティブを繰り返しながら部室に向かえば、見慣れた無表情が立っていて。

「...あ」

その静かな瞳にはずっと一人しか映らない。もちろん俺に気づくことなんてなくて、ただただその人を眺めている。

俺はそんな彼女の切ない横顔を腕の中に閉じ込めたいと密かな願望を持ちながら、いつも通りを心がけて声を出す。

「進、おはよ」

彼女の顔がゆっくり動く。黒の短い髪がさらりと揺れて、俺はどうしようもない気持ちになってしまう。

「遅かったな」
「うん、ちょっと用事あってさ」

笑顔が自然に出てきて困る。彼女はおめでたい顔をした俺をじっと見て。その瞳をどきどきしながら見つめ返す。

「先に行ってる」

彼女は言葉をひとつ残して後ろの部屋に入った。俺ももう一つ奥にある部屋を目指して一歩二歩、三歩四歩と足を踏み出して。誰もいない部室は冷たくひっそりしていた。今の俺にぴったりの場所だ。

さっきのあの彼女の静かな熱い瞳を思い出して、俺はたまらなくなった。急いでバッグからタオルを取り出して口に当てる。そのまま思い切り吸い込んだ息を、彼女への想いと共に吐き出した。こんなので解決できるはずはないけれど。俺はいつまでも胸が甘美に苦しいままだ。

『好きなの』

朝一番に泣かせてしまったあの娘の言葉が頭にフラッシュバックする。その姿が自分と重なって痛い。

彼女のさっきの横顔を思い出す。初めて会った時と変わらない無表情がずっと俺をおかしくさせる。溢れた感情が波になって喉から出てきた。

「好きなんだ、進...」

3925回などとうに超えた何万回目とも分からない言葉をタオルに吐き出す。その言葉はどうしても届かないのだけれど。だから今日も言葉を棄てる。脆い日常が終わらないよう重い想いに蓋をして。

タオルを持ってグラウンドに出た。マネージャーも...監督もまだいない芝生の端。靴紐を縛る彼女の隣に腰を下ろした。

「進、今日もがんばろう!」
「ああ」

君のそのひと言ふた文字の母音だけで幸せに思う。もうこれだけで良い。良いのだ。


これから先、また3925回があるとしても、本当に欲しい一回が訪れてくれることは決してないのだ。自分から居場所を無くしに行くような愚かな行為をしたくはないし。だって死んでもずっと一緒にいたいって思ってるんだもん。だから、俺はずっと君の隣にいられるように、いっそ女になってしまいたい。





┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

桜→進♀→(?)な桜進♀
ふたりとも叶わない恋をしている
でもらばはそれに〝今は〟がつく(かもしれない)が、しんさんには〝決して〟がつくので悲しい悲しい

ちなみにしんさんの心を射止めた相手はこの話中に出てきてる

話を完成させるということがないから、何か完成させられるように頑張りたい抱負


2020.10.02.

about

・当サイトは、女性向け二次創作小説サイトです。
・原作者様、出版社様、関連会社様とは一切無関係です。
・BL(ボーイズラブ)要素を含みます。
・小説の中には、女体化が多く含まれております。
・転載、複製、加工、及び自作発言は絶対にお止めください。