ぽぽぽぽーんと現れるのは選んだ覚えもない感情ばかりで、俺はそれを棄てるのに今日も手こずる。







「進、おはよー」

今日は珍しく朝練前に登校できた。多分一年ちょっとぶりくらい。久しぶりの朝練の雰囲気はなんだか少しどんよりしていて重かった。俺がいるからかな、なんて思ったりもしたけど、どうやら違うようだ。まあ無理もない。だってまだ朝六時五十分。みんな眠たいよなあそりゃあ。俺は久しぶりの朝練にテンションが上がっていたから早起きが楽しかったけど。

「桜庭」
「ん?」
「いや、なんでもない。おはよう」

俺は進を見下ろす。大分身長差ができてしまったおかげで、今進がどんな顔をしているのかわからない。身長が伸びるのは嬉しいけど、進と離れてしまうのは嫌だ。ただでさえ最近まともに会えてないっていうのに。

「しーん、ちゃんと言ってやれよ」

頂が進にニヤニヤしながら声をかける。頂にも「おはよう」と言うと「...お前、そういうとこだぞ」と言われた。

「アイドルのクセによォ!お前もっと嫌われる性格になれよ!!」
「そうだそうだ!俺たちがかわいそうになるだろうが!!!」

そこへ神前も加わって同調する。俺は困惑し進は首を傾げた。

「俺は何をちゃんと言った方が良いんだ」
「え?ああほら、久しぶりに桜庭が来たからびっくりしちゃった〜!って」
「む。わかったのか」
「いやわかるわ!だって俺ら何年一緒よ!」
「そーそ。ズッ友親友だからな俺ら」
「ちょっと待って。進と親友なの俺だから」
「は〜〜???何を仰っておられるのです??俺が一番進と一緒にいるんだからな!練習と帰りの電車一番ずっとなの俺だし」
「いや。一、二年で同クラだった俺の方が理ある!」
「待って待って。一、二年も一緒だし三年も同じクラスだし俺。それに一番最初に進に話しかけたのも移動教室行ってたのも体育のペアも全部俺。一番一緒にいるのも絶対俺」
「うるせえ練習も学校も来てねえ奴が甘っちょろいこと言ってんじゃねえぞ」
「おい!そのイジリは止めろ!!」
「あ、アイドル怒った」
「こわーい!気性荒すぎるー!」
「ねえ進!!進は誰が一番だって言うのよ!」
「答えて!このスケコマシッ!」
「進はスケコマシじゃないしあと訊かなくてもそんなのわかるじゃんね!一番は俺だよね!!」

三人で顔を突き出し進を見つめる。進は三人の顔をじっと見ると顔を背けて外に出てしまった。俺たちはずっこける。

「進!!」

慌てて服を着て進の跡を追いかける。それを見てぼそっと「親鳥を追いかける雛」と頂が言ったのを俺は聞き逃さなかった。











「え、何お前もう帰んの」

朝練終了後、携帯を覗くと社長から連絡が来ていて『午後からスポンサーと会食が入ったから迎えに行くわね』...十分前。社長はいつも急すぎる。

「うん、仕事だってさ...」
「お前大丈夫?アメフトはともかく、勉強とか」
「全然だめ。元から頭良いわけでもないのに授業すら受けてないんだもん」
「考査まであと三週間だぜ。どうすんの」
「出席日数も足りてないしさ、まあそこは課題やって提出すれば良いって言われてるけど...でもテストはどうにもならないよね。多分当日も撮影だし」
「じゃあ...どうすんの?」
「次学校来た時、かな。でも休みっていきなり入るからさ、勉強する暇もないし...今まではなんとかなってたけど、それでも赤点スレスレだったし」

ため息が出てしまう。神前と頂は気の毒に...と手を合わせた。俺は愚痴(?)が止まらなかった。

「もしかしたら留年かもなあ。まだ一期だけどさ。なんか今年駄目な気がする。勉強はもちろんそうなんだけど、アメフトなんてなおさらダメダメで...みんなよりも全然下手なのに練習も全然してないし。今日だって監督にたくさん怒られちゃったし。今はレギュラーになんとか残れてるけど、これ以上練習も参加できなくなったら連携ミスももっと増えちゃうだろうし、どんどん後輩も上手くなってるし、俺なんかよりも」
「桜庭」

はっと顔を上げる。進はもうとっくに着替え終わっていて鞄も持っていた。俺も神前たちも、というかこの部室にいる人間が少し強張る。なんとなく彼の瞳と語気が怒りを孕んでいるような感じがしたから。

「自分を卑下するのはやめろ。それでもお前は〝一応〟このチームのレギュラーだ」
「!」
「レギュラーがそんな弱気なことを言うな」

それだけ言うと進はドアの方へ行ってしまった。チームメイトはみんな気まずそうに俺を見ている。中には意地悪く笑っている奴もいた。

やっぱり進もそういう風に思ってたりするのか。でも、そりゃあそうか。自分でレギュラーの...そしてエースの座を掴み取った進が練習に全然来ないのにレギュラーに(しかも大して上手くない)選ばれる人間を疎ましく思わないわけがない。

「だが」

進が少し大きい声を出す。笑い声が止まる。

「お前は間違いなくこのチームにいなければならないし、確実にレギュラーにいなければいけない。監督だって思っている。今日だってお前に人一倍厳しかったのは、いつも練習に来れないお前をもどかしく思ってのことだろう」
「し、進...」

ここぞとばかりに神前と頂がおちゃらけ始める。部室は和やかな雰囲気になり始めた。

「それに俺もお前がいないと困る」
「...え!?」
「お前のいない学校生活も部活も、少し退屈だ」

だから軽々しく留年するとか言うな

ちょっと照れくさいのか、進は小さめの声で素早くそう言うとすぐ部室をあとにした。俺はもうたまらなく嬉しくなって、上裸のまま進を追いかける。

「進!!」
「服を着ろ」
「俺さ!ぜーーったい次のテスト良い点取るから!!」

進は目を瞬かせる。俺はグーを差し出す。ほんの少しだけ口角を上げて、進もそれに応じた。

「マリンボウル絶対行こう!」
「ああ」
「そんでさ!来年もふたりでレギュラー勝ち取って、目指そうクリスマスボウル!!!」
「絶対行くんじゃないのか」
「絶対行くよ!行きます!!!」

後ろから俺を呼ぶ声が聞こえてくる。多分社長から電話が来たのだろう。早く着替えなきゃ。

「桜庭、ファイトだ」
「進もね!寝ちゃだめだよ!!」
「お前もな」

手を振って部室に戻る。練習後だというのになんだか足が軽い。軽すぎて思わずスキップをしてしまう。

「なんだか今日は上手くいきそうだ、絶対!」

とりあえずまずは社長に怒られよう。今日は何を言われても大丈夫、無敵だ。



額を伝って汗が落ちた。それが何かの合図な気がする。もちろんするだけだけどね。



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今年のしんさんの誕生日何書こうかな〜と悩み始める今日この頃

2020.05.19.

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