「いつ、さ。結婚とか、する?」


先日長く交際をしてきた相手から婚約を受けた。付き合いはもう中学からであったが、男女の関係になったのは大学を卒業してからだった。それから私は選手を、彼はタレント業という道を歩んで早六年。三十路という節目の歳を迎えておよそひと月、私は今後プレイヤーとしてやっていくのは難しいだろうと、つまり選手生命に関わるような怪我をしてしまい、十六年間のアメフト人生に終止符を打つことになった。これから何をして生きていこうかと、人知れず途方に暮れていたら

「今までずっと進に支えられてきたから...今度は俺が支えたいんだ。進のこと」

そう言われて渡された花束とシンプルなデザインの銀色の輪の意味は、そういうのに疎い私でも流石にわかった。喜の感情が爆発して声が出なくなってしまった私はなんとかして頷いて彼の甘い要求に応じた。彼は私が大好きな表情を浮かべた後、ほろりほろりと涙を流した。「断られるかと思った」と破顔して喜ぶ彼を前に、どうして赤面できないか。「進ってば顔真っ赤!」と幸せそうに抱き寄せられれば私も彼の背中に腕を回すしかなかった。

無職から一転、晴れて花嫁になった私だが、なんと母校から「教師をやらないか」と声がかかった。恩師からのありがたい誘いに断るなんて選択肢があるはずもなく、私は母校の体育教師をすることになった。一方私の恋人兼未来の旦那はテレビドラマで初めて主役に抜擢され、大スターへの道をまた一歩踏み出したらしい。私はこういうことに疎いため、全て友人からの言葉の受け流しだが。

そんなこんなでまたお互い忙しくなり始めたわけだ。がしかし、結局婚姻届を書き届けるタイミングを逃してしまった。しかしそんな紙切れを赤い他人に渡しただけですぐ関係が変わるでもないし、しばらくはまだこのままでも良いだろうと思っていた矢先だった。


「ほら、式場とか良い日に予約したいし」

...嬉しい。が、今は...というタイミング。絶賛夏休み中に行った練習試合の結果を受けて、チーム一丸で勝ちに行こうと練習を始めだしたばかりであった。これから式...などと考えると、少し億劫なものがあった。

「...」
「し、進?」
「子どもができたら」
「...え」
「子どもができたら、考えよう」

咄嗟の逃げだった。こんな時なんと言えば良いのかわからなかったし、なによりもこんなことを伝えてしまうのは桜庭に対して失礼だと思った。

「なるほどね」
「?」
「わかったよ。そうしよっか」

桜庭は驚くほど穏やかに私の提案を受け入れてくれた。何がなるほどなのかはわからないが、ともかく結婚は少し延びたようだ。...悲しいことに。

そりゃあこうは言ったが、私だって早く桜庭と夫婦になりたい。こんな欲求昔じゃあ考えられなかった。しかし桜庭と同じ食事をして同じ布団で寝ているうちに、まだ何にも縛られていないようなこの関係をもっと強固なものにしたくなった。せっかくのその機会を私は今逃した。

「じゃあ進、先に寝室行ってて」
「わかった」
「俺もすぐ行くから」

久しぶりに、しよっか

いきなり耳元で囁かれた言葉に、私は飛び上がった。もちろん本当に飛び上がったわけではない。しかしえらい衝撃が走ったのは紛れもない事実で。

「起きて待っててね。もちろん寝てても良いけど...でも、多分すぐ起こしちゃうと思うな」
「さ、桜庭、」
「大丈夫。無理はさせないし、気持ち良くしてあげるから」

桜庭は私の顔を包み込むように手を添える。彼の顔が近づいてきて私は思わず身構える。

「俺のこと春人って呼んでもらえるようにがんばるね」

耳に軽くくちづけを落とされる。私は呆然と立ち尽くす。

桜庭は本気だ。今日の桜庭は、本気だ。私は今日絶対に────

「かわいいね、進。大好きだよ」

続きは布団でね

後ろ向きに言われたその言葉は、私をあっけなく落城させた。



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久々桜進♀
本当はヘタレらばの奮闘記にしようと思ってたけどたまにはこういうのも!恥ずかしい!!!

2020.05.09.

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