マニュアル通りの恋は一方通行で、深夜二時過ぎSNSをずっと確認する日々 こんな日常もう嫌だ。報われないのに想ってばっかで疲れるだけ。それでも熱が治まってくれないのだから困る。

ベルリンの壁が壊されたようなあの衝撃 自分は知らなかった。壁の向こうから彼が微笑んで、という妄想を何度すれば気が済むのだろう。

明日のためにも早く寝なければいけない。朝一番から会うから。携帯をスリープモードに落とす。しかしそれでも悶々と考えてしまって眠れない。眠りたい。
目を閉じて羊を数える一匹。心の中で二匹。でも英語で数えた方が良いんだっけ三匹。それでも心臓のように眠らないのだろうな、四匹。




ベルリン天使を考える。人間に恋して人間になっちゃう天使の話、わたしはそういうのに憧れる。自分のことを好きになってくれた人と幸せになりたい。だから今している恋は全く理想とは程遠いものなのだ。だから痛くて嫌い。早く忘れたいのにその方法が分からない。酒に酔っているわけでもなのに酩酊状態で低迷している。アラームが鳴る五分前、結局今日もよく眠れなかった。久しくリンリンリンという音を聴いていない。うつうつの頭痛でアラームをオフにした。ばあちゃんの気持ちの良い野菜を切る音が聞こえる。早く着替えよう、迎えも来てしまうし。

「はるちゃんおはよう」
「おはようばあちゃん、朝早くからごめんね」
「いつも同じような時間に起きているから大丈夫だよ」

着替えて下に降りればもう朝食はできていて幸せな気持ちになる。食事のにおいは寝ぼけの頭痛も吹き飛ばしてくれるから好きだ。できることならご飯の匂いがする香水を纏いたい。

「朝ごはん美味しそう、たまご焼きだ!」
「あったかいうちに食べな」

いただきますと手を合わせて、さっぱりした野菜を食べたい気持ちを抑えてたまご焼きを口にした。野菜から先に食べると痩せてしまうらしい。自分はちょっと筋肉をつけて太りたいからタンパク質から食べる。
ほわほわのたまご焼きは甘くて美味しい。醤油と砂糖の味付け、自分では作れない。美味しいかいと訊いてくるばあちゃんに超美味しい!と返してガツガツ食べる。ばあちゃんはにこにこ笑顔で嬉しいねえと頭を撫でた。ばあちゃんが笑ってくれるとわたしも嬉しい。わたしも笑顔をお返ししていつも美味しいご飯ありがとうと素直に伝えてみた。ばあちゃんは笑みを崩さない、嬉しい。

「はるちゃん、変わったねえ」
「え?」
「変わったっていうより、昔に戻ったみたいよ。ばあちゃんが退院した時はちょっと怖かったから...」

あの時の自分は黒歴史だ、思わず苦い顔。しかし笑顔は崩さない。

「ごめんね。はるちゃんが頑張ってたのにばあちゃんが入院しちゃって」
「!違うよ!ばあちゃんのせいじゃない、わたしが悪いの。すっごい心がしんどくて、それで...」
「分かるよ、ばあちゃんにだってそういう時期があったから。でもはるちゃんがまた純粋に笑ってくれるようになって嬉しいよ」

これもトウマちゃんたちのおかげだね、そう言ってばあちゃんはまた台所に戻って行く。本当にそうだ、トウマのおかげ。性格が拗れて腐っていたわたしたちを引き上げてくれたのはトウマの存在が大きい。不器用だけど率直な言葉を投げてくる彼女に、少なくともわたしは救われた。全然そんなこと伝えられないけど。
そして今もあいつに救われている場面が多い。でもわたしもあいつの役に立っていると現在は自負している。わたしが睡眠不足で倒れないための唯一の助っ人、そしてトウマが睡眠不足で倒れないための唯一の助っ人がわたし。今は戦友なのだ。どういうことなんのってそりゃあ一つしかない。

「ごちそうさまでした」

食器を下げて顔を洗う。そしてリップだけ塗って、ばあちゃんにいってきますの挨拶をして家から出た。迎えに来る車はもうあと一分ほどで到着する位置にいる。トウマとの位置情報共有アプリでそれが確認できるのだ。
トウマからラビチャが来ていた三十分前。「眠れたか?」眠れるわけないよ、羊を数えていても頭に思い浮かぶのはあの優しい笑顔なのに。

車が一台目の前に停まる。どデカい高級車、この家の前に停まるには相応しくないやつ シンデレラかよ。後ろのドアを開ければすぐわたしの心臓が動いてしまう笑顔を向けられた。

「おはようございます亥清さん」
「...おはよー」

澄まし顔窓席の彼、一瞬で心拍数が速くなる。ちょっと低い声を出してしまった自分にばかばかと後悔する。

「虎於ありがと」
「お子さまからの依頼を蹴るほど酷な人間じゃあないさ」
「お子さまって誰のことだよ」
「はは、子どもは自分を客観視することができないらしい」
「うざ!降りてやる!!」
「おっと、ここから山梨までは遠いぜ?」

前の席で運転する虎於と緩みきった顔で寝ているその隣のトウマ...ばか。わたしの隣人がくすぐるような声であらあらと言ってくる。いやだ、もう本当にいや。

「寝癖、ついてらっしゃいますよ。ふふ、直しますね」
「...ありがと、巳波」

かろうじての声だけ絞り出し、ときめきハッカーな彼に髪を預けた。わたしの心臓ハードピンチ ちょっと不眠症眠らせてよこの心臓!

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しにたすぎる夜 迷惑をかけている
はやくしにたい

2022.06.30.

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