「うーん、恋愛観。恋愛観か...考えたこともなかったな」

酒に強いあいつが今日は少しだけ酔っ払っていて、すごく気持ち良さそうに俺たちの質問を聞きつらつらと答えていた。
今の質問は俺がしたわけではなく、最年少の悠がしたのだ。決して俺ではない。こんな質問を酔っている彼女にするなんて悠も中々酷い男だ。今のこいつは要らん事まで口を滑らせてしまうのではないか。例えば初恋の話だったり、いかに楽しいもしくは苦しい恋愛をしてきたかを語ってくれることだろう。
俺たちは少し、否かなり楽しみにしていた。狗丸トウマという初心な女からどのような恋愛観が飛び出すのか。

「ん〜〜〜〜〜」
「なんだよトウマ答えらんないの」
「いや、俺ずっとアイドルだったから恋愛とかしたことなくてさ、そんなこと考えたことなくて」
「は?何それつまんない。じゃあ初恋の話して」
「初恋、つか恋もしたことないしな〜」
「トウマ本当につまんないんだけど!」

怒る悠に笑いかけながらトウマは酒を煽った。こんなに飲むトウマを見るのは初めてで、何だか愛らしかった。舌っ足らずな喋り方と真っ赤な耳。ふたりきりだったら口説いていたかもしれない...と、ありえない可能性を思いついて密かに笑った。

「じゃあどういう男がタイプなの?!」
「普通に口が固いヤツが良い。女の子だったらそうじゃなくてもカワイイな〜って思うけど...つか女の子はあんまりそういうことベラベラ喋んないんだよな」
「...?ふうん」
「あと男だったら普通にデカい方が良いな。テク云々言ってるヤツもいるけど大きさ足りないと結局満足できねーし」
「......ん?」
「女の子なら一緒に寝てくれるだけでも良い!不機嫌でもご機嫌でもどちらにせよみんな満たしてくれるから...これはお前らも知っての通りだと思うけど」
「.........待って、トウマ何の話してんの」
「ん?好きなタイプだろ」
「そ、そうだよね...?」

あとハル、今は色んな人がいるから男が女、女が男を相手として話したら駄目だ云々と話を続けている。かなり気持ち良く酔っていた俺はこの説教話を聞く頃には素面に戻っていて、狐に包まれたような不思議な気持ちになっていた。それは巳波も同じなようで普段の薄ら笑いも浮かべず無表情をしている。

「あ、あとはもう本当に独身とか恋人がいないヤツに限る。これはもう男女等しく」

何かがおかしい。俺たちはトウマのほのぼのとした恋愛話を聞いていたはずだった。否聞く予定であった。しかしそれが何故?何だこの話は。ガチガチの猥談じゃあないか。トウマの隣に座る悠は首を大袈裟に傾げていた。無理もないなぜなら俺も同じ心情だからだ。おかしいだろうだって狗丸トウマ、狗丸トウマだそ?恋愛の話を振るといつでもおこぼい反応をして怒りだす狗丸トウマだぞ??

「いや、寝るのは割と誰とでも良いんだけど...口が固ければ」
「バイ?とかではない。恋愛対象は男。だけど女の子から誘われてもついてっちゃうかな」
「経験人数!?えー何人だろ、そんなの一々数えてないしな」

各々、というか話を理解できていない悠以外の俺と巳波は勝手に質問をして、そして勝手に衝撃を受けていた。経験人数を聞いてしまった俺は巳波と悠に机の下で蹴飛ばされたが、その直後にトウマがした「ハルはどんなタイプが好きなんだ?タイプっつか四葉の妹が好き?あの娘が相手ってことは...ハルって童貞?」という質問が最低過ぎて相対的に俺の発言の罪は軽くなった。

「...狗丸さん」
「ん?どうしたのミナ、なんか怒ってる?」
「お家に帰りましょう。送ります」
「え!なんでだよ、やだやだ。せっかく久々に四人でいるんだからもっと一緒にいよう」

なーハル!と首をぺたーんと悠にくっつけリスのように顔を擦りつけるトウマは年不相応でこの上なく可愛らしく見えた。顔を真っ赤にした悠は「巳波どうにかして!」と泣き声で叫んでいる。しかし斜め向かいに座る巳波は口で制することしかできないようだった。俺は呆然としてその光景を眺めるだけ 悠に何か言われているが、右耳から左耳へと言葉が抜けてしまう。

トウマが頑なに一定以上の酒を飲まなかった意味がわかった。トウマの机の領域を見るとトウマが頼んだ量の三倍以上のグラスが置かれていた。いつの間にこんなに注文したんだと驚いたが、しかしこの量の三分の一は俺たちがふざけて頼んだものだ。そして「嫌だ」と喚くトウマに飲ませた。飲ませてしまった。まさかこんな化け物が生まれるとは思っていなかった。全く酔う素振りを見せない彼女に安心していた。こいつは突然限界突破するタイプだったのだ。それを知っていればこんなことには。大体トウマが言ってくれれば良かったのだ先に。自分は酔うと化けてしまうと。

「ちょっと御堂さん何ぼけっと見ているんですかあなたも手伝ってください」

えへへーと今度は巳波の腕を掴むトウマの手を立ち上がって解いてやった。巳波は悠を俺がいた席に連れて行きお手ふきやら残っていた甘味やらを与えていた。過保護が過ぎるだろう巳波は悠に甘い。俺は必然的にトウマの隣に座ることになり、トウマの攻撃を受けることとなった。トウマは俺に腕を絡め頬をつんつんと突いてきた。そして「トラのほっぺたつるつる〜!髭とかないんだな」と上機嫌に笑っている。俺はだんまりを決め込む。ここで逆に声をかけると更に派手なことになるということをこいつと同い年の大富豪とその相方から学んだからだ。あの未成年の相方はすごいと改めて思う、というかこの年代は酒癖が悪いのか?
それにしてもこんなに下品に絡み酒をしてくる奴を初めて見た。しかしトウマの絡み酒は嫌味を全く感じず、純度100%の笑顔を見ていると満更でもないような気分になってくる。俺はそろりとトウマの頬に指を伸ばす。トウマは今度は俺の左手に夢中になっていた。薬指の第一関節と第二関節を両手でいじっている。右手の人差し指はあと三センチでトウマの頬に到達するところだった。しかしその指は突如として現れたブラックホールに柔らかい痛みと共に消える。「おれにさわるなんてあといちじかんはやいんだよ」 トウマは俺の人差し指を咥えながら憎らしげに笑った。

その瞬間何かが飛んだ 俺は立ち上がる。
トウマに深くキャップを被せてクレジットカードを一つ置いた。御堂さんと疑問符を付けて俺の名前を言う巳波に「それでここの精算とタクシー代を払え」と去ろうとした、首を傾げるトウマを連れて。「御堂さん、他人のクレジットカードは使えないんですよ」...至極真っ当なことを言われて立ち竦む。悠にばかと呟かれたが言葉を返せないでいると今度は巳波が「不本意ですが」と立ち上がる。

「私たちは先に帰りますね。狗丸さんのこと、くれぐれも、よろしくお願いします」

行きましょうの言葉に悠も挙動不審になりながらバイバイと個室を出た。創世記の大洪水創世記の大洪水創世記の大洪水 舟に乗り損ねた俺は危うく黒い波に呑まれるところだった。危険な思考を片隅に追いやって焼き鳥の串をあぐあぐと噛むトウマを見つめる。トウマに深く被らせたキャップから覗く形の良い赤い耳が口の動きと一緒に動いた 結婚しよう。

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いますぐ神父を捜しに行くかと悩んだ 急に乳輪

2022.03.04.

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