顔合わせは事務所でね、10時半。と、ツクモの新しい社長兼マネージャーである了さんから突然昨日連絡があり、10時22分、俺はツクモプロダクションの前に立っていた。二週間前にスカウトされて、一週間前ラビチャを交換、そして今日新しくチームメイトになる奴らと初対面。えらいハイテンポで進む俺の新しい日常に、まだ正直ついていけてない。
元いた事務所と比べると悲しくなるくらい立派なビル。有効期限付きだけど、ああ今から俺はこんな大きな事務所の世話になるのかと思うと気が遠くなってくる。が、ここで気張るしかないのだ。

「はるか、みなみ、とらお...よし!」

昨日の集合メッセージは了さんが作ったのであろうラビチャのトークルームで来ていたため、名前とメンバーの数だけはとりあえず知ることができた。了さんのメッセージに三人とも返信はしていなかったが、その後俺の送った「了解」の言葉には既読が付いたから、一応メッセージは見ているのだろう。

この事務所の最上階、社長室と呼ばれるらしいそこに、俺の新しいメンバーがいる。らしい。
そう思うと何だかそわそわして楽しみだった。...前のグループが解散してまだ一ヶ月も経っていないのにな。つくづく薄情な人間だと思うがこれが俺なのだから許してほしい。

自動ドアを抜けて受け付けの女の子に声をかける。女の子は頷いて「エレベーターへどうぞ」と指し示した。俺は手を向けられた方にあるエレベーターへ乗り込んで、一番数が大きいボタンを押す。
ゆるやかに箱は上がり、数秒後、軽快なチャイムと階数を伝えるアナウンスと共に扉はゆっくり開いた。

最上階、社長室があるだけあって、何だか重い雰囲気だ。

『一番奥に金のドアノブのついた部屋があるから、そこに入ってね〜』

一週間前に了さんに会った時言われた台詞。その時は俺の家の近くにあるカフェに呼ばれて、「準備ができ次第君に連絡するから」と言われた。それがまさか今日だとは思わなかったけど。

例のドアの前に立つ。扉の向こうから物音は一切聞こえない。この扉が分厚くて音を通さないのか、それともこの先に誰もいないのか。ちらりと腕時計を見ると時刻は10時25分を指していた。

いこう

ひとつ呼吸を吐いてドアをノックした。こういうのは割と勢いが必要なのだ。あまり悩んでいると緊張が全身に回ってしまうから。

「いいよー」
「失礼します」

扉を開けると相変わらず胡散臭い笑みを浮かべる了さんが出迎えてくれた。奥のソファに目をやるとふたりが向かい合って座っていた。ひとりは雑誌を読んでいて、もうひとりはイヤホンまで着けてゲームをしている。まるで俺に興味が無いようだ。別に良いけど少し悲しい。

「待ってたよトウマ!こっちに来て座りなよ。君の大好きな甘ったるいショートケーキがあるよ」
「いや俺、甘いの苦手だって前も言ったよ...な?」
「ん〜、そうだっけ?て・い・う・か!その頭どうしたの!寂しいことになってるじゃない!」
「あー、ちょっと気合い入れ?みたいな」

ここで初めてふたりが顔を上げて俺の方を見た。水色の髪の奴と目が合ったが、ふいとすぐに逸らされた。クリーム色の方は俺を横目で見ただけで、すぐまた前を向いて視線を下に落とした。

「そうなの?残念だなあ。引っ張って遊ぼうと思ってたのに」
「...心底切っておいて良かったと思うぜ」
「何か言った?ま、次切る時は言ってよ。僕が直々に切ってあげるから」
「い、いや...しばらく切らないでまた伸ばすからいい」
「ふうん、つれないね。まあいいよ、トウマが寝てる間にこっそり切っちゃうから」
「ね、寝てる時は勘弁してくれよ」

了さんとの実りのない会話が終わって、俺はソファに向かった。

「「...」」

ふたつの沈黙が怖かったが、そんなことを恐れている場合ではないのだ。了さんは楽しそうに俺の様子を眺めている。...もしかしてこの人相当性格悪いんじゃないか。しかし今はそんなことどうでも良い。多分メンバーであろうこいつらと意思疎通を図らなければ。

「あー...と、よろしくな!」
「「...」」
「い、狗丸トウマだ。好きに呼んでくれて良い」

じろり、という視線が俺をいたたまれない気持ちにさせる。

「......よろしく」
「よろしくお願いします」

クリーム色の方が緩く笑った。俺もつられてへらりと笑う。
水色とクリーム色、どちらの隣に座るか一瞬迷って、とりあえず水色の隣に腰を下ろした。水色の方がなんとなく気が強そうだったし、多分遅刻の、最後に来る奴が、温厚そうなクリーム色の隣になれば安心できるだろう。

「じゃ、これトウマのケーキね。コーヒーと紅茶どっちがいい?」
「...いやだから俺ケーキいらねえって」
「ケーキ、いらないの」

水色が畳み掛けるように俺に言った。いつの間にかイヤホンを取っていて、さっきまで超生意気そうに光っていた目が少しだけ柔らかくなっていた。

「いらねえけど......あ、食いてえのか?」
「べ、別に」

水色はぷいとそっぽを向いてしまった。了さんは「え〜、じゃあ僕が食べちゃおっかな〜」と全くそんな気なんて無いだろうにケーキを皿に置いた。水色はじっとケーキを眺めている。

「...了さん、やっぱそのケーキくれよ」
「!」
「なに?食べたくなっちゃったの?」

いいよ、と了さんは皿を持ってくる。「ありがとうございます」と受け取ってその皿を水色に渡した。

「え...」
「食えよ。えーと...名前は?」
「.........悠」
「じゃあハル。俺甘いの苦手だからさ、やるよ」
「えー、トウマあげちゃったの?僕も食べたかったのに〜」
「嘘つけ!ほらハル、さっさと食えよ。了さんに横取りされる前にな」

席を立って了さんの方へ向かい、コーヒーを受け取った。

「ありがとうございます。自分が淹れなきゃなんねーのに...」
「まあ今日は特別だよ。次からはトウマが淹れて。ま、ボタン押せば出てくるんだけど」
「なんだよ!」
「この部屋には必要なものが揃ってなくてね。僕が買ったんだ、このドリップマシン」
「へー、良い買い物したじゃん」
「おかしいんだここ。娯楽道具も無かった。...それにしてもドアノブってね!つくづくセンスがないよ。自動ドアにすれば良いのに」

了さんはドアの方に向かうと思い切りそれを蹴った。鈍い音が室内に響いて、ケーキを食べていたハルの肩がビクリと跳ねる。クリーム色の方は本当に興味がないのか、ずっと雑誌を読んでいる。

「や、やめろよ!足痛めちまう!」
「僕、この扉に足痛められちゃった〜。トウマ、慰めてよ...こっちの方で」

下品なジェスチャーをされて、俺はさっきのハル以上に肩を跳ねさせる。

「ば、ばか!俺絶対そんなことしねえからな!」
「ジョークだよ。僕だって言うことを聞かない犬みたいなお前なんて嫌だ」

カチンときたが実際その通りなのでこっそりしょぼくれるしか無い。
「それよりも」...と、軽快にステップを踏んでクリーム色の方に向かって行った。そして黙々と雑誌を読んでいるクリーム色の肩に手を回し、「巳波、お前が慰めてよ」と言い放つ。

「嫌ですよ。目の前の方に慰めて頂いたらどうです?」
「悠は未成年だからね〜。背徳感感じながら慰めてもらってもな〜」
「未成年の前でそんな話すんな!」

慌てて俺はハルの耳を塞ぐ。ハルは「何すんだよ!はーなーせー!!」と怒っている。

「私も一応未成年なんですが...」
「え!?」
「トウマ?なんで悠の耳、塞いでるの?ただ巳波によしよししてもらいたかっただけなのに」
「............」
「おいトウマ!いい加減手離せよ!」
「ああわりい!にしてもお前肌綺麗だな〜、すべすべしてて気持ちいぜ」
「きもいんだけど!!!まじで触んな!」

これが未成年と酒飲み成人との違いか...と軽くショックを受けた。酒の量減らすべきかな、とひっそり考えたがきっと俺は減らさないだろう。

「つか、あと一人いつ来るんだよ。もう11時だぞ」

〝みなみ〟に絡む了さんの動きを制止させようと俺は声をかける。了さんは〝みなみ〟から離れて「ま、あいつはおぼっちゃまだから仕方ないね」と社長席へ向かった。

「でも一応電話かけておこうかな。悪いけど一旦出るよ」
「ああ」
「じゃあね。喧嘩しちゃダメだよ」

了さんはドアを静かに開けて出て行った。さっき滅茶苦茶に蹴り上げていた人間と同一人物だとは思えない。

「...」
「...」

また部屋は静まり返った。ハルは食べ終えたケーキのフィルムを器用にフォークで丸めていた。フィルムにはクリームがほとんど残っておらず、舐めたように綺麗だった。...舐めてないよな?
〝みなみ〟は雑誌ではなく今度は携帯を見ていた。穏和そうなのに話しかけないでオーラを放っていて話しかけられない。一体どんな特訓をすれば相反する二つの雰囲気を出せるのだろうか。

「...」

そして俺も黙ってラビッターを見る。この空気の中、口を開くのは難しかった。好きなアーティストのアカウントを見て、ライブやCD情報を確認する。しかし特に目新しいものは確認できなかった。

携帯をスリープモードにして俺はぼんやり部屋を眺める。デカいテレビ、ドリップマシン、冷蔵庫、ままごとセット...?了さんって子持ちなのか?

「トウマ」
「!な、なんだハル!」
「コーヒー牛乳作って」
「え?」
「あったかいの」
「...カフェラテに砂糖入れたのでいいか?」
「いい。早く作って」

クソ生意気だなコイツ...自分で作れば良いのに。というかこの部屋に牛乳が無さそうだし、コーヒー牛乳作れないの分かるだろ。そう思ったが一々口には出さない。空気が変になっても嫌だし。

「あー...みなみ、さんはどうする?」
「呼びやすい呼び方で構いませんよ。私もアメリカーノを頂けますか」
「じゃあミナ。砂糖とミルクは?」
「結構です」
「わかった」

俺もなんか適当に淹れよう、とりあえずハルのカフェラテから...まあタッチパネルを押せば勝手に出来るんだけど。ドリンクバーに似たこのマシンは扱いやすく、そこまで機械に強くない俺でも動かすことができた。紙コップにコーヒーが注がれ、満杯の一歩前くらいで電子音がする。次にまた紙コップを置いてアメリカーノのところを押す。その間、ハルのカフェラテに砂糖を二袋入れてプラスチック・マドラーで混ぜて渡した。

「一応二ついれたけど、足りなかったら足してな」

スティックシュガーを紙コップの隣に置いて、アメリカーノを取りに戻った。ハルの「あちち」という声が聞こえる。

「ハル、味大丈夫か?」
「...もうひと袋いれる」

ハルに作る時は三つ入れる、と頭の中でメモをしつつ、ミナにコーヒーを渡す。

「ありがとうございます」

全く関係ないが俺はミナの顔をどこかで見たことがある...ような気がする。じっと見つめていると「なんです?」と口調強めで言われた。

「い、いや...いや、なんかさ?俺ミナの顔、どっかで見たことあるんだよな」
「あら、光栄です」
「光栄?」
「いえ、こちらの話です」

首を傾げてみるが答えてくれる素振りは無い。コイツも少しひねくれ者なのか?まともそうに見えるのに。

俺もアメリカーノを淹れようとタッチパネルを操作する。あとワンタップで操作完了、というタイミングでいきなりドアが勢い良く開いた。了さんが帰ってきたのかと振り返ると......えらい顔の良い奴がいた。

「おい、了さんはどこだ」
「...し、知りませんけど」
「待たせてもらう。隣良いか?」
「ええ」
「そこの、俺にもコーヒーを。エスプレッソダブル」

了さんの知り合い...には違いないんだろうけど態度デカすぎだろ。てか何でミナは隣に座らせるんだよ。もうひとりのメンバーでもあるまいし.........ん?

「あ!お前もしかしてメンバー?」
「品のない奴だな。いきなり大声を出すなよ。まあそうだな。今日からこの事務所で世話になる」
「お前に電話するっつって了さん出てったんだけど」
「ああ、そういえばさっきから携帯が鳴っていたな」
「おい!早く出ろよ!了さんかわいそうだろ!」
「男の電話に出る義理は無い」
「義理?!何言ってんだ仕事だろ?」
「仕事、か。ならお前も早くエスプレッソを持ってこい」
「俺はコーヒー淹れるのが本職じゃねーよ!とにかく早く電話に...」

ガチャ、とドアが開いて了さんが現れる。機嫌悪くなるんじゃねえかとハラハラしたが、「ああ、虎於来てたの」と意外にも静かだった。

「何トウマ、またコーヒー飲むの?眠れなくなっちゃうよ」
「いやこれ虎於、さんの...まあもう一杯飲もうとしてたけど」
「巳波と悠も飲んでるじゃん。大活躍だね。やっぱりあった方が良いんだ」
「了さん何か飲む?ミナとハルは...」
「んー、僕はいいや」
「私も結構です」
「オレも。つーかまだ飲み終わってないし」
「わかったよ。...はい、虎於さん。遅くなりました」
「...」

何も言わずに紙コップを取られる。なんだよこいつ、態度悪いなあ。ありがとうくらい言ってくれたって良いのに。

虎於さんは一気にそれを飲み干すと「もう一杯」と言った。

「え、同じのをっすか?」
「ああ」
「エスプレッソですよ?!腹痛くなりません?」
「ならない。早く寄越せ」
「いやいやいや、今仕事の前ですしやめましょうよ。虎於さんの体質わかりませんけど...」

虎於さんは高圧的な目で俺を睨みつける。足を組んで...いや待て、こいつ足長すぎじゃね?サテンのド派手なシャツを着て小さな千鳥柄のパンツを履き足はローファー...しかもスカーフまでつけてる。海外のスターみたいな格好だな。

「...俺だけ虎於、なのか」
「え?」
「フン、なんでもないさ」
「あ、そうすか」
「...」
「...なんだよ!言いたいことがあるならはっきり言ってください!」
「別に」

めんどくさ!俺は自分の分も虎於さんの分も淹れずにハルの隣に座った。虎於さんにじっと見られるがそんなの無視だ。コーヒー飲みたきゃ自分で淹れやがれっての!
ハルはまたゲームをしていた。今度はイヤホンをつけていない。

「じゃあ、みんな揃ったことだし。前に言った通り、君たちにはこれからŹOOĻとして活動してもらうよ」
「ああ、よろしく」
「そしたらまずは自己紹介からしようか。はい、悠」
「え?!オレから?なんで?」
「一番子どもだから」
「子ども扱いするなよ!...亥清悠、十七歳」
「はい、尻すぼみ自己紹介ありがとう。次、巳波」

なんだよそれ!とハルは文句を言っていた。それにしても十七歳。若いなあ。NO_MADでは俺のひとつ下が最年少だったのに。

「棗巳波です。よろしくお願いします」

こいつは一体いくつなんだ?大人びて見えるのに、俺よか年下...。さっきも未成年て言ってたし、俺と同い年とかではないんだろうな。

「トウマ」
「狗丸トウマだ。よろしくな。二十歳だ」
「虎於」
「御堂虎於だ」

静寂が訪れる。「御堂虎於だ」と言ったきり、何も言わずに髪をかきあげた。了さんは「それだけ?」と聞き返す。

「他に知りたいことがあったら聞きに来い。教えてやる」

どうしてそんな上から目線なんですか、と思わず出そうになった言葉を引っ込めて了さんに話の続きを促す。

「虎於は二十一歳、巳波は十九歳ね。トウマ、未成年飲酒させたらダメだよ」
「させるか!」
「あらあら、暫く禁酒生活ですか」
「お前は飲酒をしていた事実を暗に述べるな!これからアイドルになるんだから、そういう黒いことは絶対NGだぞ!」
「留学していたんです、私。そこでは十六歳から飲酒可能でしたので」
「あ、なーんだそうなのか。なら良いけど。でも日本ではだめだからな!気をつけろよ!」
「肝に銘じておきます」
「ハルもな!あと虎於さんもミナとハル誘っちゃだめですからね」
「うっさいなあ。飲まないよ」
「...」
「あれ?なんで虎於黙ってるの」
「誘うつもりだったのかよ!あんたに常識観ってないんすか!?」
「元々未成年を誘うつもりは無い。そして狗丸、お前もだ」
「は、はい?」
「さっき質問に答えてやると言ったが、お前は除外だ。巳波、悠、存分に訊いてくれて構わない」
「...はあ?」

なんだこの高飛車男。別に本当に訊きたいことなんてないし、いやまあ一緒に飲みには行ってみたかったけどさあ...。俺は何か嫌われるようなことを言ってしまったのだろうか。と考えてみるが、思い当たることは何も無い。

「特にありません。それよりも了さん、早くお話を進めてくださいませんか」
「え?特にないよー。これで解散。じゃあね〜」
「ちょ、待てよ!レッスンのこととか衣装のこととか親睦を深めたりとか色々あるだろ!俺たち四人で一ヶ月後にやるんだよな路上ライブ!?」
「まあやるけど...ああ、そういえば衣装が来てたんだ。じゃあそれのチェックだけね。僕もう疲れちゃったから」
「練習は?オレもダンスとかやっときたい」
「じゃあやる気ある人だけ明日ここに九時ね。それから車で練習場所に連れてくから」
「わかった」
「ちょっと待ってて。衣装、今届けさせるから」

了さんは電話を掛けに出た。はーー変に緊張して疲れた。俺は背伸びをして脱力する。

「トイレ行ってくる」
「あら、じゃあ私も」
「いってらっしゃい」

二人も出て行き、俺と虎於さんふたりきりになった。気まずいな、とは思うがここで俺まで出て行ったら虎於さんがひとりになってしまう。別にひとりにさせたって良いが、この人帰っちまいそうだから見張りもかねてここにいる。

「さっきのこと」
「ん?」
「どうして俺を酒に誘わないんですか、とでも訊いたらどうだ?」
「は?」
「態度が悪いな」
「すんません...いや、俺に訊かれても答えないって言ったのあんたじゃ...」
「俺が訊く権利を与えてやると言っているんだ。気が変わらない内に訊いておくのが得策だぞ。俺と仲良くしたいならな」

俺と仲良く...?ああ、さっきの俺が言った「親睦を深める」って言葉を曲解してるのか。思考回路どうなってんだこの男。しかしまあこの面倒臭さにもだんだん慣れてきそうだ。

「あの...その前に一ついいすか?」
「なんだ」
「俺、巳波と悠のことミナとハルって呼んでるんで、虎於さんもトラさんて呼んでいいですか?」

虎於さんは目に見えて顔を明るくした。効果音がつきそうなくらい突然ご機嫌になった表情に俺は思わず「え」と言ってしまう。しかし聞こえていなかったようで、トラさんは上機嫌に髪をかきあげた。

「トラで良い。それにもっと砕けた話し方をしてくれて構わないぞ」
「あ、ほんとか?よかったぜ。敬語ニガテなんだ。じゃあ改めてよろしくな、トラ」
「よろしく、トウマ」

おお名前呼び...なんか謎に感動してしまう。つーか嬉しい普通に。さっきまであんなにツンツンされていたのに。もしかしたらわりと単純な奴なのかもしれない。手を差し出されそれに応じる。でっかい手。7号サイズのバスケットボールも余裕で持ててしまいそうだ。

「あ、じゃあ...なんで俺を酒に誘ってくれないんですか?」
「敬語はもうやめろ。それについても撤回してやろう。まあ、元々誘うつもりも無いがな」
「なんだよ!」
「どうせいつか捨てるグループだ。それはお前たちも承知のはずだろうが」
「...ッ、そんな言い方、」

すんなよ と、言葉を続けられない自分が憎い。し、この人の言っていることは間違っていないのだ。期間限定のグループ。それがŹOOĻ。

「...そう、だな。はは、そうだった。忘れちまうところだったぜ。ありがとな」
「...」
「にしても了さんもミナとハルも遅いな。早く来ないかな。衣装が気になる」
「はいはーい、おまたせ。持ってきたよー」

勢いよく開いたドアから車輪つきのハンガーラックが了さんの手によって運び込まれる。その後ろからハルが大きめなダンボールを持ってついてきていた。

「前が見えない!」
「おい、大丈夫か?」

ハルからダンボールを受け取り、了さんの隣に置く。ミナがハルに「お疲れさまです」と言っていた。...いや、一緒に持ってやれば良かったじゃねえか。

「おー、こういう衣装久しぶりだな」
「お前のは首輪つきだよ、トウマ。リードは付けられないんだけど」
「...心底良かったぜ」
「じゃあほら、さっさと隣の部屋に行って着替えてきてよ」

にやにやと了さんはいやらしい笑みを浮かべている。その意図は読めなかった。...監視カメラでもついているのだろうか。
各々の衣装にはそれぞれ名前の書かれた付箋みたいなものがついているのに、三人はあーだこーだ揉めている。もう仲良くなったのか。その光景がなんだか微笑ましい。

「.........逆、だな」
「何?何か言った?」
「前とは真逆だなーって」
「何が?」
「いやほら、前は男女比9:1で活動してたから...ŹOOĻは反対じゃん、比率。だからなんかこう...新鮮、というか」
「は?何言ってんの?」

了さんが本当に意味が分からないんだけど、という声色で俺のことを見る。俺はわりとエモい感じでそう言っていたから「何言ってんの」と言われて恥ずかしくなる。

「い、いや、別にそんなこれ以上話すことはないけど...」
「違うよ。何が9:1だって?」
「NO_MADのメンバーが、だよ」
「それで何?ŹOOĻはその逆だって?」
「え、あ、ああ...。ハルにミナに.........え?」
「狗丸さんには私たちが女性に見えるんですね。特殊な目をお持ちなようで」
「ん?」
「は?なに、オレたちのこと女だと思ってるわけ!?」
「.........そうじゃないのか?」
「ありえないんだけど!!!!どっからどう見たって男じゃん!!!」
「え!?」
「お前のいたグループには女がいたのか。美人か?紹介してくれ」
「はい?!」

了さんの方を勢い良く見る。了さんはこれ以上に無いくらい悪い顔をしていた。

「トウマ〜ダメじゃないか、性別間違えるなんて〜」
「わ、悪い!本当に勘違いしてた!」
「私と亥清さんはともかく、御堂さんの性別を間違えるのは...今までどんな方とお付き合いしてこられたんです?」
「え?いや、トラのことは別に...んぐ!?」
「ダメだよトウマ、ŹOOĻは男四人のグループだよ。しっかり覚えてね。ちょっと躾が必要かな?隣の部屋に行こうか」
「んん!んんーーーッ!!!」

そして俺は後悔することになる。髪を切ったこともガサツな喋り方も鋭すぎる目も、男らしい名前も。今までの俺を作ってきた全てを恨めしく思った。
了さんは言った、「良いこと思いついちゃった」と。
そして俺は察した、「これは非常に悪いことだ」と。

「ŹOOĻのメンバーにバレるまで君はこれから男だ」
「拒否権は無いよ」
「大丈夫大丈夫。サポートはするから」

どのくらい持つかなーー三ヶ月いったらご褒美をあげよう。あ、衣装も作り直さないと。いやー、することが山積みだなあ。了さんは一人でウキウキしていた。

「自分からあいつらにバラしたりしたら、もう一生アイドルできないと思ってね」
「.....................はい」

男性アイドル狗丸トウマ、ここに爆誕。めでたくなれ!俺!!!


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トウマさん♀総受け気味のギャグ
続き書けたらいい

2021.01.15.

about

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