言い訳だけさせてほしい。俺は入学前の全員が揃うオリエンテーション、試験、入学式とその後のオリエンテーションに参加をしていなかったのだ。どうしても外せない家庭の用事があって参加をすることができなかったから。試験を受けていない俺は自動的に下のクラスで成績優秀な進さんは上のクラス。そして上のクラスAと下のクラスBでは講義が全く被らないから当然顔を合わせる機会はない。個人情報の保護とかで学年名簿は配られないし。何よりも進さんがあまりにも変わり過ぎていて気がつかなかったのだ。もしかしたら何回かすれ違っていたのかもしれない。それなのに六年間比較的近い位置にいた彼女に気がつかないなんて、本当に自分は鈍感というか何というか────

「とにかく本当にごめんね進さん!!!」

友だちに何も言わず講義が終わってすぐ隣の教室に猛ダッシュした。一番前の席に座る澄まし顔の彼女は言い訳と謝罪の言葉を述べ頭を下げる俺を不思議そうな眼で眺めていた。

「君は私に謝るようなことをしていない。顔を上げてくれ」
「いや、でも本当に...」
「では許す。許すから顔を上げてほしい」

恐る恐る顔を上げれば無表情の進さんが唇を結んで俺を見つめていた。進さんは化粧っ気が全くないのに化粧をしたみたいに肌が綺麗だった。自分が分からないだけでもしかしたら化粧を何かしているのかもしれないけれど。彼女は瞳を一瞬落としてまた俺を見る。一文字の唇を開いて「すまない」と言った。

「こう謝罪された時に何と答えれば良いのか分からない。本当に自分は気にしていないからそちらも気にしないでほしい」

それだけ言うと進さんは机の上に広がっていたテキストやノートをバッグに詰め始めた。置いてけぼりの俺を気にすることなく彼女は立ち上がる。それではとおさらばしそうになる進さんを尚引き留めて「あのさ」と続けた。迷惑なのは百も承知だ。決して昨日みたいに気に食わなくて、とかではないのだ。なんとか誤解を解きたかった 事実しか無いのだけれど。昼休みに入るし少しなら大丈夫だろうという打算もあった。混むであろう学食も多分使わないだろうし。この人の変わった食生活を六年間の付き合いで知っている。わざわざあんな込み合ったところには行かないだろう。眉根を寄せる進さんに頭の片隅で謝罪をしつつ「進さんはさ」と話を続ける。

「俺と同じ学部ってこと気づいてた?」

彼女は頷く。そりゃあ俺ほど鈍感じゃなきゃ気づくよなあ だよね本当にごめんと落ち込んだ声を心から出す。まばらになった講義室から出て行く人たちがちらちらと好奇な目で見ているのが分かる。話題も尽きてしまったし進さんも何も言わなくなってしまった。いつの間にか鳴り始めていた携帯のバイブレーションが虚しく手のひらで響く。

「君は目立つから」

音のしない三十数センチの間に一滴の雨のような言葉が落ちた。恐縮で俯いていた俺はその声にちょっと顔を上げられる。進さんは真っ直ぐ俺の瞳を捕らえていて、その強い瞳に心臓が不規則に波打った。

「小佐田の言い方が極端すぎるんだ。別に普通だと思う。私だって覚えていない」
「ただ君は目立つ生徒であったし席が近いことも多かったし、それに恩もあるから覚えていた」
「大学に入学しても変わらず目立っていたから一方的に自分が知っていただけだ。私のような地味な人間を君が覚えていた方が驚きだった」
「だから何も気にする必要はない。気づいていたかそうでなかったかの差だ」

食事の時間が迫っているから失礼する、彼女は腕につけた小さな時計を眺めて言った。今度こそ本当に去ろうとする彼女の後ろ姿を「ねえ」と呼び止めていた。彼女はまた不思議そうな顔をして首を傾げる。綺麗な髪が揺れて、自分はどうしてこの子のことを忘れていたのだろうと深く考えたいと思った。しかしそれよりもしたい欲が自分を無意識に動かした。

「一緒にご飯食べよ!」



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最後のところだけつけたした ええてかこれの続編書いてたんだて感じだし、③とか私できるんだてびっくりだよ

2024.2.25

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