携帯電話がブブッと鳴った。メールが届いたのだ。僕はそのメールの主が誰なのか見なくてもわかる。































「セナ、じゃあ俺もう行くな」
「あ、ありがとう陸!もうほんと陸にはお世話になりっぱなしで申しわけないというかなんというか......」
「いいっていいって。セナ、困った時にはお互いさまだって、な?」
「陸...!」
「んじゃま!とにかくあんま無茶すんなよ?お・か・あ・さ・ん!」
「もうっ!まだ気が早いよ~~~」

にししと笑って陸は僕のかなり大きくなったおなかをぽんぽんと優しく触った。

「...無事に、産まれてくるといいな」
「うん...ほんとにね」
「無理、すんなよ。少しでも具合悪くなったらすぐ俺のこと呼べ?な?」
「そ、それにはちょっと頷けないかな~なんて...」
「なに言ってんだよ!頼れ頼れ!!存分に頼れ!!!俺はお前の兄貴分なんだからな!」
「ふふっ、またそれ言ってる。...でもね、本当に大丈夫だよ。今は落ち着いてるし。それに、陸にはこれからもまたたくさんお世話になるし!」
「セナ...なんかお前、いきなり大人びたな」
「ええっ!ほんとに!?」
「こんなことで嘘ついても意味ねーだろ!そうだ、明日久しぶりに外出てみるか?俺仕事夜からだし」
「いいよいいよ!!ゆっくり休んでなよ、せっかくのお休みなんだから!」
「いいんだよ。どーせ朝は6時に目が覚めちまうし。それに、俺もまだ越してきたばっかでこっちの土地よくわかってねーから、いつか探検したいと思ってたんだよな。だからさ、探検兼ねて散歩行こうぜ!」
「...ほんとにいいの?無理させてない?」
「おいおい、俺はNoが言える男だぜ?どっかの誰かさんと違ってさ!」
「うぅ...で、でも!僕だって嫌すぎることは言えるもん!」
「逆に嫌すぎないと言えねぇんだよなぁ...」
「そ、それは言わないお約束で......」
「じゃあ10時な。また迎えに来る」
「わかった。あ、朝ごはん食べる?」
「んー、食おっかな」
「りょうかい!」
「セナの料理意外と美味いからな!」
「意外とってどういうこと!?あ、ごはんにする?それともパンにする??」
「いいよ、セナが食いたい方で」
「え~......じゃ、じゃあお米にしようかな?」

あ、そんなら味噌汁追加してくれ~という陸のリクエスト(シャレじゃないよ)を忘れないようにメモをしておく。高校生の頃から使っているこのボールペンも、もういいかげんボロボロになってきた。愛着があってなかなか手放せないのだが。

それからまた少しぽつぽつと世間話をしていた。やっぱり陸と話すのはとても楽しくて楽しくて、ついつい時間が過ぎるのを忘れてしまう。
ふと時計を見ると、もうとっくに夜の10時半を回っていた。

「あ!陸、もう10時半過ぎてるよ!!」
「お、まじかー、んじゃ俺帰っかな~~」
「あ...気をつけてね。本当に。...あの、大丈夫だとは思うんだけど、ほんと、うしろから銃とかで、」
「大丈夫だよ!!!それに、バレてるわけねぇって!あと、いくらあの人が悪魔だからって人殺しはしないだろさすがに~~」
「いや、でもほんとにあの人のことだから...あ!これは人を殺すとかそっちの方じゃなくてね!ば、場所がバレてるかもってことで......」
「だーから。セナ。俺とキッドさんを信じろ。絶対に大丈夫だから。」
「う、うん...も、もちろん!信じてないわけじゃないんだよ!ただ、ただね、」
「言いたいことはなんとなくわかる。確かにあの人は不可能を可能にする能力を持ってる。だけどな、今回だけは俺たちの勝ちだ。絶対にな!」
「そ、そうだよね!えへへ、陸とキッドさんだもん、絶対大丈夫!だよね!!」
「ん!あたぼーよ!!じゃ、明日な」
「うん!ばいばい陸、おやすみなさ~い」

陸は少し手を挙げるとドアを開け、外の暗闇に消えてしまった。

「...行っちゃった」

少ししゅんとして陸が出て行ったドアを見つめる。


ひとりというものにはいつまで経っても慣れない。

昔からひとりぼっちという経験はあまりしていないのだ。学校ではまもり姉ちゃんがいたし、家に帰ればお母さんとピットがいてくれた。高校生になってからは・・・本当にたくさんの良い仲間に囲まれた。
だから今、僕はひとりぼっちがすごく寂しい。

「いつもひとりだったもんなぁ」

あの人は。いやいやもちろん栗田さんやムサシさんとは一緒にいたけど、だけど基本ひとりだった。大きな家にぽつんとひとりぼっちだった。
お父さんもお母さんも二人とも死んだって言っていたけど、多分あれは嘘だろう。ただ、ガキの頃からひとりが多かったって言ってたのは本当だったんだろうな。あの時のあの人は寂しそうだったもん。



ひとりぼっちは怖い。そして寂しい。



それはこの一ヶ月で知ったことだ。


毎日が不安で不安でしょうがないし、この土地のことだって良くわからない。料理や洗濯なんて全然やったことがなくて、初めは失敗だらけだった。孤独感で死にそうな夜はひとりでめそめそ泣いていた。陸が引っ越してきてくれて本当に良かったと思う。陸は「お前はひとりぼっちじゃねぇ!!!ほら、腹ん中にもう一人いるだろ!」って言ってくれた時にはもう涙が止まらなかった。「そうだよね、ごめんね、今まで気づかなくて、」そう言ってお腹をさすればポンポンと蹴り返してくれた。陸は驚いた。僕はもっと驚いた。初めてのコミュニケーションだったのだ。

それからは前ほど寂しくなくなった。が、依然わけのわからない恐怖心は消えず、毎日がブルーだった。
ひとりぼっちじゃないけれど、でもやっぱり夜はちょっぴり寂しい。テレビはないし、音楽を聴くものも全部あっちに置いてきてしまった。この部屋にあるのは携帯電話だけだ。

メールは三件届いていた。一通はきっと陸だ。彼は意外と筆まめ(?)なようで、毎日一通は必ず送ってくれる。きっと部屋を出て行ったあとすぐ送ってくれたんだ。もう一通は誰からだろう。多分モン太か鈴音だ。昨日モン太からメールが来てその返信をして、多分またそれの返信だ。鈴音からだったら『こっち(アメリカ)おいでよ!』っていうような元気が出る陽気なメッセージだろうな。


残りの一通は、


試合の前みたいに高鳴る心臓が痛い。息が詰まりそうになって呼吸がしづらくなる。バクバクバクと破裂しそうなくらい鼓動が大きく音を立てる。

恐る恐るメール・ボックスにカーソルを持っていき、ピと開いてみる。新着メール三件。一番上に来ているメールの送り主はやはり甲斐田陸。その下は雷門太郎。そして、

「ヒル魔、さん」

一ヶ月に一回来る不定期メール。だけど僕はあなたから来たってことが携帯を開かなくてもわかるんだ。その予想が外れたことなんて一度もない。僕があなたのことを思い出して涙を流そうとすると、あなたからピッタリのタイミングでメールがくるんですよ。まるであなたが近くで僕のことを見ているように。泣いてんじゃねーぞというふうに。だけどね、あなたは知らないと思うけど、あなたからメールが送られてくる度に僕は結局泣いてしまうんです。

自分から望んであなたに会えなく、会わなくしたのに、あなたに会いたがってるんですよ、僕は。本当に大馬鹿者です。


ねぇ、会いたいです。

会いたいんです。


空気を読んでくれているのか、お腹からはなにも返ってこない。
それがとてもありがたく、そしてとても心細かった。


  ◈  ◇  ◈


愛してるなんて今さら言われたってもう僕は嫌いですらないので。返す言葉もあなたを抱きしめたいという気持ちも少しもありません。

「...帰って、ください」
「話を聞け」
「...帰って」

きっと睨みつければポーカーフェイスの彼が珍しく少し驚いた顔をした。僕だってびっくりしている。彼に対してこんな冷たい声を出せて、そして睨むことができるだなんて。

情けないけど僕はぶるぶる震えて目には涙の膜も張っていて。きっととっても弱そうだ。雨に濡れた子犬のように。だけど今、ここで負けちゃだめだ。ここで負けたら僕はまたこの人に振り回されるだけの人生になってしまう。

「僕、もうあなたのこと、信じられない」
「な...」
「ごめんなさい」

バタンとドアを閉めて鍵をかける。「おい!!糞チビ開けろ!!!」と叫び、ドアノブをがちゃがちゃする音が聞こえてくる。本当に開けたければあなたお得意のピッキングで開ければいいのに。それを使わないっていうことは、僕のことをやっぱりそんなには想ってくれてなかったっていうことですよね。なんとなくわかってましたよ。

我慢していた涙が頬を伝っていく。あーあ。終わっちゃった。自嘲気味に笑えば涙はもっと溢れてきた。僕の無意味な初恋。こんな終わりを迎えるなんて。想像できなかったや。嫌だなぁ。辛いなぁ。でも時間が経てばきっと忘れられるよ。

「さよなら」

ドアに寄りかかったまま少し大きな声でそう言えば、ドアを無理矢理開けようとする音は止んだ。「俺はそんなん認めねぇからな」という声が聞こえたあと、足音が遠くへ行く音がした。ほっとした。そして僕のこれからやるべきことは決まっていた。とても冷静な僕はとても冷静にとても迅速に、信頼してる幼馴染みへ電話をかけた。





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記念すべき初・ヒルセナ
本当は完結してから載せようと思ってたけどモチベあっぷのために...どんくらい続くのかわからんし、完結できるのかもわからないけど、とりあえず書いてみようって思ったのが8/28。もう10月だよ...
他にもいろいろ桜進とか阿雲とか鷹モンとか書いてるからまぁぼちぼち書いていこう



2018.10.06.

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