「お前が先に俺を好きだと言ったんだ、その言葉に嘘はないんだろう」

 ぎらぎらの目が怖くて本当に怖くて逃げ出してしまった。仕事の都合上会えなくて一週間、明日はミーティングだから絶対に会う必要がある。仮病を使ってでも逃げ出したいが自分にそんなことができる筈もなく、結局ベッドの中にもう潜り込んでいる。明日のためにアラームを設定しておこうと携帯を開いた瞬間に来た彼からの「逃げるなよ」の文字に自分は固まり、返信するかどうか悩んだ挙句寝たふりを決め込んだ。ぽわぽわ鳴り続ける携帯に身体を背け耳を塞いで身体を縮める。そのうち通話がかかってきて、それにも無視していると電話番号の方にまでかけてきて、留守電を残していた。もう絶対に明日の朝まで見るものかと目を瞑る。
 どうしてこんなことになってしまったのだ、そうなったきっかけが全くわからないからずっと悩んでいる。彼に対して不誠実をしでかしたこともないのにどうしてこんなに執着されるのだろう。執着は不安の裏返しであることを痛いほど分かっているため、自分は彼を不安にさせるようなことをし続けているのだろうと思う。無意識に出た「助けてトラ」と矛盾した言葉に自分はまた首を傾げた。





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 きっかけが何だったか、もう覚えていない。頑丈な俺の胃が毎日痛くなるほど奔放で、そして俺に対してだけ当たりがキツかったトラが、ある頃から段々優しくなり気がつけば甘やかされていた。恋愛経験のなかった自分はコロッとそれに惹かれてしまい、思わず彼にそれを伝えてしまった。すぐに落とされたくちづけと流れるように始まった性交渉に身体に骨抜きにされて、しばらくメロメロでいたことは覚えている。

「トウマが俺を愛した分だけ愛してやるよ」

 確か終わったあとにそう言われて付き合いが始まった。そういう行為で(言うなれば突き合いで)自分が言った好きの言葉をはぐらかされてしまったのかなと最中に頭の片隅で寂しくなっていたから、すごく嬉しかったのだ。
 トラは俺がトラを大事にするよりよっぽど愛を注いでくれた、過剰なくらい。心の部分も身体の部分も全部全部トラに愛されていたと、小っ恥ずかしいが思う。実際今だってトラの指を思い出すだけで下半身が疼くし しかしそれでハッピーエンドというわけにはいかなかったみたいだ。

 ある時からトラの態度が変わった。巳波と悠はそれよりも前からとっくにおかしかったと言っているが、自分は鈍いからかそれに気づかなかった。一番、本当に最初の違和感は俺のSNSを見たあとにするトラのレスポンスだった。
 地元に帰った時に腐れ縁と撮った写真をラビスタに載せた。トラにもそのことは話していたし、それに男だけと撮ったわけではなく女二男三の五人で撮ったものだった。過剰に男との距離が近かったわけでもない。しかしその写真を載せたあと一時間くらい経って怒涛の鬼電、スタ連 いくら信頼している幼馴染みとはいえ恋人がいることを、しかもそれがメンバーであることを明かしてはいなかった。だけどタイミング良く携帯を置きっぱなしでトイレに行っていた自分が戻ると幼馴染みたちは神妙な顔をして「トウマ、やめな」と口を揃えて言われた。最初何のことかさっぱりだったが騒がし過ぎるバイブレーションの正体に気がつき、大焦りに焦った。

「あんたが誰と付き合おうと構わないし祝福する。メンバーでも全然良いと思う、異性関係に超慎重で処女のあんたが選んだだから良い相手なんだと思う。だけどこれはやばいよ、バッキーじゃん」
「束縛強い人間と人たらしのお前、相性悪過ぎる。お前この男にいつか刺されるぞ」
「とにかく返信してやんな、つか電話しろ」
「ごきげんでな!なんだよ電話すんなよ、とか絶対言うなよ!拗れるぞ!」

 みんなの助言を受けてすぐに電話をかけた。ここでスピーカーにして俺たちにも聞かせろと真剣な目をして言う幼馴染みたちにしょうがねえなあ!とおどけていた。
 俺はその時まで、俺とトラが付き合っていることがバレたことに対してやばいまずい恥ずかしいと思っていたわけで、トラがこういう過剰な連絡をしてくることに対して何か感じているわけではなかった。なんか急ぎの連絡があんだろうな〜くらいにしか思っていなかった。だからみんなが言う話にそんな大袈裟な、と軽く考えていた。

「あ、もしもし?トラどうした」
「.........随分ご機嫌だな」

 過去最高に不機嫌な涙声が聞こえて

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2024.01.28

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