スーパーを歩いていたら、ひと昔前に流行った曲が流れた。一度聴いたらしばらく離れない曲。

「あら、懐かしいわね」
「おい、肉安いぞ。今日牛丼にしようぜ」
「いやよ!あんた何パック買うつもりよ!?」

全くこの男は!...と思うけど、でも確かにお肉安いdayだし、お肉料理にしようかしら?

「牛丼以外であんた作れる料理ないの?」
「...お前、文句言うくせに自分で作れないの、どうかと思うぞ」
「あらヤダ、別に料理ができないワケじゃないのよ。ただお菓子作りしか得意じゃないだけ」
「まあなんでもいいけどよ。ちょっとくらい手伝えよな」

そう言って豚肉を五パックもカゴの中に入れた。入れすぎよ!と怒るとどーせお前もすぐ食い終わるから大丈夫だとカートを押した。





その後スライス・チーズと野菜を大量に買って部屋に戻った。帰り道も料理を手伝ってる間も、私はずっとあの曲が頭から離れなかった。

「チーズの肉巻きなんて...あんたなかなか乙なことするわね」
「まあ面倒だからひとりじゃ絶対やらねーけどな」

いただきますと永吉が手を合わせたから、私も見習って手を合わせた。晩餐の始まりである。

「おいしい〜!」

永吉は何も返さないでもっちゃもっちゃ食べ続けている。いつものことだ。コイツは美味しいものを食べたってそうじゃないものを食べたって何も言わない。味わかってんのかしらね。

「私が手伝ったおかげね♡」

無視。...冷たいわね。別に何か言葉を求めてるわけじゃないけど、でも褒めてくれたっていいじゃない。

無言の時間がおよそ十分続き、そして永吉は「ごちそうさん」と手を合わせた。ゲフーーーーーーと長いげっぷが聞こえる。

「ちょっと汚いわよ!」
「ワリ、じゃあ皿洗い頼むな。風呂洗ってくる」

そう言って永吉はお皿を下げてお風呂に行ってしまった。

「もうっ!」

ほんとに永吉は!永吉は食事を楽しもうっていう気持ちがない。いつもすぐお腹を満たして次のことをしに行く。ひとりでぽつんと残されてご飯食べるこっちの気持ちにもなりなさいよね!

あ、あの曲が流れてきた。もちろん頭の中で。んもう!こっちは怒ってる気分なのに!もう全然そんな気持ちは収まった。やっぱり音楽の力ってすごいわ。

「風呂洗ったぞ。...まだ食ってんのか?」
「いいの!美味しいものはゆっくり食べたいの!」
「お前...この前スイーツバイキングに行った時、次から次へと食ってたじゃねーか」
「あれは別!でもちゃんと味わってるんだから!永吉には言われたくないわ!」

へーへーすいませんね、と永吉は後ろを向いた。...怒らせちゃったかしら?そう思って口を開こうとした。ら、

ベブッ!

爆発音と共に悪臭が漂ってきた。

「信じられない!バカ!食事中のオトメにこんなことするなんて!!!」
「ワリ、出ちまった。誰がオトメだよ。二十過ぎたら女だってオトメなんて言わねーぞ」
「言うわよ!例え五十歳だって六十歳だって九十歳だって女のコはオトメなのよ!」
「おめーは女じゃねーだろ!」

かっちーん、あったまきた!もう許さないわ!しかもおならは臭いし!

「もう怒ったから!」
「は?なんで俺が事実言って怒られんだよ」
「事実だからって言っていいことと悪いことがあるでしょ!?それに!永吉は全然わかってないのよ!楽しい食事の時間だってなんも話さずに食べちゃうしどっか行っちゃうしおならはするし!もう嫌い!永吉なんて嫌い!」

私が怒鳴ると、ピロロロンお風呂が湧きました、と電子音が聞こえてきた。はっとして永吉を見ると少し悲しそうな顔をして「そうか」と呟いた。

むず痒くなって、「反省しなさいよね」と言ってお風呂に向かった。

















「お風呂あがったわよ〜」

お風呂から出てくると、永吉はいなかった。キッチンにもベランダにも寝床にも、トイレにもいなかった。おかしいわね。どこか行くなんて言ってたかしら...あ。

そうだ。私、さっき永吉とケンカしたんだったわ。

途端に嫌な感情が出てくる。それは永吉に対してじゃない。酷い言葉をいくつも投げてしまった私に、だ。

「あんなに怒ること、なかったじゃない」

そうだ。永吉が食事中におならをするなんて、しょっちゅうあることじゃない。それを何で今日に限ってヒステリックに怒っちゃったんだろう。

「バカね、私」

ほんとにバカ。多分永吉は怒ってどこかに行っちゃったんだわ。

「永吉...」

もしかしたらもう帰ってこないかもしれない。そんなのは嫌!やっと一緒にいられるようになったのに。愛を伝えられる関係になれたのに!絶対に永吉のことなんて手放したくない。ずっと大切にするって約束したのに。いっつもそう。大事にしたいのに、なぜかできない。

「永吉...えいちゃん!」

じわりと涙が滲んできた。嫌だ、もうなんで涙なんて出てくるのよ。タオルで目を抑えても、全然涙は止まらなくて、嫌だ嫌だ、視界がぼやけてどうしようもない。

「えいちゃん...早く帰ってきて...」
「よォ、帰ったぜ」

本格的に参っちゃったみたい。えいちゃんの声が聞こえてくるなん・・・ん!?

「おめー、玄関で何泣いてんだ?目にゴキブリでも入ったか?」
「え、え・・・」

えいちゃああああああああああん!!!!!!そう言って抱きしめた。えいちゃんは渋い顔をして「その呼び方やめろ」と不機嫌に言った。

「えいちゃん!えいちゃあん...」
「なんだよ」
「もう帰ってこないんじゃないかって思った」
「ンなわけねーだろ。携帯も財布も置きっぱなしなのに」
「ごめんなさい、さっきは酷いコト言っちゃって。えいちゃんのこと、傷つけたわよね」
「いや、俺の方こそ悪かった。...お前の言う通り、確かに食事は楽しいはずのモンだよな。ひとりで食っても美味くねえよな。そのこと忘れてた。すまん」

珍しくえいちゃんは素直に謝った。心がじんわりあったかくなっていく。

「えいちゃん...!」
「だから、よ。もっかい夜飯やり直さね?とは言っても、もちろんメシ食うわけじゃなくて」

ついてこいとえいちゃんはキッチンへ向かった。慌てて追いかける。えいちゃんは冷蔵庫の前に立つと小さいタッパをふたつ取り出した。

「え...!」
「お前が風呂入ってる間に作って冷やしといた。おめーが長風呂男で良かったぜ。まだちょっと緩いが...でも俺が風呂入ってる時に冷凍庫で冷やしときゃ、なんとかなんだろ」

なんてかわいいんだろう、この人は。愛おしさがたまらなくあふれて止まらない。きっと私はこの人のことを一生愛すのだろう。健やかなる時も、病める時も。

「てか今俺走ってきたからよ、汗びしゃびしゃだぜ?お前もっかいシャワー浴びた方がいいんじゃねーの?」
「えっ!?ちょっと先に言いなさいよ!」
「おめーがいきなし抱きついて来たんだろ!」

またやいのやいの諍いが始まった。だけどさっきみたいに嫌な雰囲気じゃない。

「まーとにかく冷凍庫に入れっかんな」

えいちゃんがタッパを動かすと、中でぷるりとゼリーが揺れた。咄嗟にスーパーで流れていた曲が頭の中でまた再生された。

『恋してぷるぷるつんつん甘酸っぱい想いは、』

「ギブミーギブミーコミュニケーションハートを繋いで!」
「?なんだいきなり」
「うふふ!なんでもないわよ!早く食べましょ♪」
「その前に風呂な」
「私も一緒にシャワー浴びるわ♡」
「俺が体洗ってからにしてくれ」

どうやら、私とえいちゃんのハートは繋がったままだった。心がギュッと弾んだような気がした。


/コミュニケーション


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忘れもしない、私が小学校六年生の時の話だ。...と、つらつら書いてもいいけど面倒臭いし意味がないので書きません。ただ、初めて小説を書いたのが実根♀だった。やっぱり支部に上げてたりとかしたけど、マイピク限定にしたままそのパスワードを忘れてしまったからもう二度と読めないのだ。

2019.10.15.

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