「ピクニックに行こうよ、前に約束したじゃないか」


 春の陽射しのようなほっこり笑顔で言われれば断る理由もできなくなる。まあ俺がこの天使からの誘いに断りを入れるなんてことは絶対にありえないのだけれど。
 チャーミングな巻き毛が首を傾げるこいつと共に揺れた。安心した、世界は今日も回っている。お気に入りのサングラスをちょいと傾けた。自分なりのオーケーサインだ。

「じゃあ少し遠出しよう!」

 そう言って楽しそうに手を合わせた。そこで俺は訊いてやる。「どうやって遠出するんだ?」彼はあっけからんと答えた。「もちろん君の相棒で、だよ!」


 君の相棒 君の相棒ねえ。ふと思った。お前は俺の中にいるお前を自分でどう推察しているんだろう。友達、親友?いいや違うね今は。否最初から。訊かれたら答えてやるよ。まあ、そんなことお前は考えてもいないんだろうけど。



あいの不整脈



 迎えに来いと言ったくせにあいつは時間になっても本屋から出てこなかった。丁度Radio Ga Gaを聴いていて気分が良かったから車で待っててやったが、聴き終わっておよそ三分後、まだ出てきて来やがらなかった。
 普段なら外に出て待っているのに。バスケットなんて持ちながら俺の車を見つけると「クロウリー!」と手を振るあいつ。...いや待てよ、俺たちは今日生まれて初めてピクニックに行く。ということはこれはただの妄想だったわけだ。

「楽しみにし過ぎかよ、俺...」

 チッと舌を打って車から出る。そして〝CLOSED〟の看板が掲げてある古本屋に指を鳴らして鍵を開け、中に入るとまた指を鳴らして鍵を掛けた。

「おいアジラフェル!時間はとっくに過ぎているぞ!」

 俺の声は高い天井のこの店に響いただけだった。慌てる足音も焦った声も何も俺の耳に届きやしなかった。

「アジラフェル!」

 イライラしてもう一度名前を呼ぶ。さっきよりも少し大きな声で。カタンと奥で音がした。そして「どぅわああああああああ!」と鼓膜を破りそうなくらいデカい声が聞こえてきた。

「ったくよォ!寝坊か!」
「すすすすすまない!ああ、私から迎えに来いと言ったくせに...!本当に申しわけない」

 いかにも寝間着姿、という格好でアジラフェルは出てきた。が、その顔は真っ赤に染まっていて、目はくるくると回っていた。

「...アジラフェル?」
「い、いやあ、その、今日が本当に楽しみ過ぎて眠れなかったんだ。サンドウィッチを作ってバスケットに詰めて、ウキウキしながらベッドに入って、ずっと今日の想像してて...」
「待て。お前...何か変じゃないか」
「変!酷いなあ!私はいつも通りだ...わあ!」
「なるほど、鈍臭さはいつも通りだな」

 何につまずいたのか、転けたアジラフェルに手を差し出し、起こしてやる。

「あ、ありがとう...」

 そう言ってアジラフェルが俺の手を握った。「アッツ!!!!!!!!!!!」俺は威力の弱い聖水にふざけて指を突っ込んだ時のことを思い出した。アジラフェルはまたひっくりがえった。

「な、なんでいきなり大声を出すんだ!!鼓膜が破れてしまうだろう!!!」
「デカい声も出るわ!!!お前熱すぎる!!!!!地獄の業火か!?」
「何を言っているんだクロウリー!私は厚くなんかない!そりゃ、昔に比べて少し体重は増えたかもしれないけど...」
「そっちの〝あつい〟じゃねーよ!!おいおい、その白い手で熱いんだからお前額に手を当ててみろ?きっと俺みたいな大声が出るぜ」

 アジラフェルは眉を八の字にさせながらおそるおそるゆっくり手を額に当てる。俺は指で耳栓をしてその衝撃を待った。三秒後、思った通りそれは来て、「だろ?」と笑った。

「おお...一体どうしてしまったんだ。言われてみれば手も首も、いつもより熱い気がするし、なんだか変な感じがするよ」
「それお前、風邪ってやつにかかってるんじゃねーか?」
「私は天使だぞ。人間のかかる病気にかかるわけがない」
「いやあ、そうとも限らないぜ。もしかしたらお前の一番上の上司がお前のこと堕天?させたのかもな、人間に」
「そんな!おお神よ...!なぜそんなことをなさるのです!」
「いや、心当たりはあるだろ俺ら」
「まあそうか...」

 アジラフェルは真っ赤な顔のまましゅんと肩を落としてしまった。俺はこいつのこんな表情が苦手だ。柄にもなくあたふたと取り乱してしまうし悲しくなる。大抵こいつがそんな顔をするのは、アイスクリームを落とした時やガブリエルに叱られた時だ。そんな時俺は新しくアイスクリームをダブルで買ってやったり、美味いディナーに連れて行ってやる。最初は落ち込んでいるが、ひと口食べた途端にいつもの笑顔に戻る素直なこいつが俺は好きだ。しかし今日はどうしよう。どうやったら笑わせられる?

「とにかくその風邪を治してやる」
「ん...頼むよ」

 額を突き出すアジラフェルに指をパチンと鳴らしてやる。しかしいくら待っても楽になった気配はなく、こてんと首を傾げ始めた。

「治してもらってる身で言うのも失礼なんだけど...ま、まだかな」
「...」

 パチンパチンといくら鳴らしても、こいつの頬から赤みが引く気配はなかった。今度は俺が首を傾げる番だった。

「...」
「ど、どう?」
「......クソ!」
「君でも駄目なのか!おお神よ、どうしてこんなことなさるのです!人間にした挙句、治らない風邪をひかせるなんて!」
「...待てよ、俺が悪魔じゃなくなったのか?だから奇跡が起こらない...?」
「でも君はここに鍵も使わずに入ってこれただろう?きっと私が人間に堕ちてしまったんだ!初期装備に治らない風邪を持ちながら!」

 酷い!酷い!とは言いつつなんだかアジラフェルは嬉しそうだった。今にもぶっ倒れそうなくらい真っ赤な顔をしているのによ。そういえばいつだったか。こいつが昔〝人間になりたい〟と言っていたのは。

「ああ、それにしても疲れた。なんだか体力がえらい消耗されるよ」
「まあそりゃあ、お前朝飯食ってないからだろう」
「私は天使だから食べなくても!...あ、人間なのか」

 またしょんぼりと肩を落とす。俺はむず痒くなって「ここには何か食えるものはないのか!」と叫んだ。

「ピクニック用のサンドウィッチしかない」
「じゃあそれ食え」
「嫌だよ!これは君とピクニックで食べるものだ!」
「そんなんじゃあピクニックに行けないだろう。もしそれが新種の流行病だったらどうする?人間に移しちまったら、もしかすると絶滅してしまうぞ。お前の大好きなJapanのトキとかいう鳥みたいに」
「そんなのは嫌だ!でも...」

 葛藤する姿がいじらしくてシマエナガみたいにかわい...いや、そんな邪な感情を感じるなこいつに。今述べてしまいそうになったあの思いが別に邪な感情なわけではないが、俺が感じているのはそうなのだ。初めて会ったまだ天使だったあの時から、俺はこいつにエクスタシーを感じている。鼻をすするこいつのぽやぽやした顔も馬鹿みたいにお人(天使)好しで呑気な性格もおどおどした喋り方もちょっぴり小悪魔なところも、全部が俺をおかしくさせた。神はなんてものを創っちまったんだと冷や汗をかいたものだ。そんなのおくびにも出さなかったけれども。

「今日は君とピクニックだったのに、念願の...」

 俺はこいつの笑顔が好きだ。それは六千年経った今でも変わらない。俺は指を高く突き上げた。アジラフェルは不思議そうにそれを眺めている。あとでベルゼブブ様に叱られても良い。何億年後になるかわからないけど。指をパチンと高らかに鳴らした。サタン様の息子...アダム・ヤングがきっといつかどうにかしてくれるさ。彼は人間にとってはよっぽど懸命な判断をしてくれる。

「...?」

 大快晴の空が一気に曇り始めて、真っ白に光った。そして爆発みたいな音。強烈な雨音。

「これでピクニックは延期だ。運悪く悪天候だもんよ」
「クロウリー...!」

 えぐえぐと泣く彼がとても愛おしい。俺は密かに憧れていた姫抱きをして、アジラフェルをベッドに連れて行った。もちろんやましいことはしない。俺も、そしてきっとこいつも純愛タイプだ。まあ恋愛したことはないけれど。六千年の片想いで忙しいからな。

「私...本当に嬉しいよ。君といられるなら人間になっても良かった!」
「フン、人間になりたがってただろお前」
「いつの話だよ!それにほら...人間には寿命があるから、」

今はあまりなりたくなかった。君と話せなくなるからね。

 酷い殺し文句だと思わないか?これで元天使なんだぜ。全く小悪魔な堕天使よ。俺はベッドに熱々のアジラフェルを降ろすと、キッチンからバスケットを持ってきて開けた。中には上品な匂いのサンドウィッチがギチギチに詰め込まれていた。

「美味そうだな」
「当然だよ!一生懸命作ったんだ」
「ほら、じゃあ早く食って元気になりやがれ人間」
「人間、人間か...トホホ、私また天使になれるかな」
「ま、風邪治したらワンチャンあるかもな」

 いただきます。そう手を合わせてパクンとひと口かじりつく。一瞬で瞳に星が宿り「美味しい!」と叫んだ。

「できたてパンで作った甲斐があった!」
「じゃあ俺もひとつ」

 口の中に入れるとバターとチーズとブラックペッパーの風味とレタスとトマトの食感とが合わさって非常に美味い。やはり飯を楽しんでいる奴の料理は違う。

「美味しい?」
「ああ美味い。そこらで売ってるのよりもよっぽど」
「そんなに褒めてくれると作りがいがあるよ!」
「ところで、体力は戻ってきたか?」
「うーん、元気にはなったけど...それは精神的なもので、別に怠さが減ったりとかはしてないかな」
「顔もまだ赤いしな」

 パチンともう一度念を込めて指を鳴らす。しかし特にアジラフェルに変化は起きない。

「どうしよう、もうこの気だるさと一生付き合わなきゃいけないのかな」
「悪い冗談だな」
「人間って辛いな、病気にかかるとこんな風になっちゃうんだ」

 ...待てよ。ひとつ思い当たる節がある。人間がずっとこんな風に顔を赤くしてぼんやり怠くなる病気に。魔女の末裔がそんな風だったのを思い出した。

「まさかお前...」
「?どうしたの」
「それ、恋してるんじゃあないか」
「こ、恋!?恋だって!!!」

 アジラフェルは生娘の様に顔をさっきよりも赤くして、頬を両手で抑えた。顔の肉がぽってりと上がって可愛らしい。

「人間は恋をするとそんな風になるっていうのを、お前は知っているだろう?」
「た、確かにそうだが...こんな顕著に現れるものなのか!?」
「ま、そういうこったな。で?お前の恋のお相手はどなたなんだい?」

 サングラスがあって本当に良かった。今の俺の目はきっと血走っていて、きっと瞳も瞳の外も全部真っ赤になっているだろう。
 思わず早口で喋る俺を不思議に思ったのだろうか、アジラフェルは「ど、どうしたのクロウリー...?」と不安そうに尋ねてきた。

「何がだ?それよりもホラ、さっさとその相手を教えろよ。そいつに想いを伝えれば...もしくはキスでもしちまえば、きっとそれは治るぜ」
「え、ええ...そ、そうかなあ」

 否定をしないということはこいつは恋をしていることに間違いはないらしい。密かに指を折ったら骨が折れた。痛みなんて全く感じなかった。もじもじしているアジラフェルが愛おしく、そして憎たらしかった。可愛さ余って憎さ百倍とはこのことか。

「そうだ!そいつの特徴を教えろよ。俺が化けてキスしてやるぜ」
「...」

 どうせ叶わないとわかったならば、もう手段は選んでいられない。共にいられるだけで充分だと思っていたが、足りない全く足りない。
 こいつとキスしたら俺は一体どうなってしまうのだろう。交換した唾液で口の中も胃の中も火傷して死んでしまうかもしれない。それでも構わないな。お互いがお互いを殺すんだ。なんて殺し合いだ。むしろ殺し愛か。...いや違う。こいつは人間だ。人間。だから恋だと愛だのって感情を持ったんだ。酷い話だ。俺は悪魔なのに愛って感情を持っていて六千年も苦しんでいるのに。しかしそれでさえも愛おしく感じるから、アジラフェルは狡い。

「おい、アジラフェル?ほら、さっさと治したいだろう?さっさと...」
「あ、あのね」

 伏し目で立ち上がった俺を見ながらアジラフェルはまたもじもじした。そのいじらしい姿に声が出てしまいそうなのを堪えて話の続きを待った。

「君はまるで私が恋をしているみたいなことを言うけどね、私は正直...最近会った人間で、顔を覚えている人間はいないんだ」
「正直に言うと、私は君の顔しか知らないし、わからない」
「だから君の理論で言うと、私が性愛的な意味で好きなのは...君ってことになってしまう」
「だからその......君のそのままの顔で、キスしてほしい」

「.........は?」

 恥ずかしい...と顔を隠して言うアジラフェルにこれから俺はどうすれば良いのか。いやもう決まっている。据え膳食わぬは男の恥とぽそっと呟いた。おかしい今日の俺は。あまり行かないJapanのことわざばかり使っているし、あまりにもこの小悪魔に翻弄され過ぎている。しかしもう決めた。俺はアジラフェルの肩をガッチリ掴んだ。アジラフェルは目をぎゅっと閉じてつんと唇を突き出す。

「いくぜ...」

 アジラフェルのぷっちりした唇目がけて、俺も唇を突き出した。というか待て。いや待てない。こいつは俺のことが好きなのか?六千年の片恋も無駄ではなかったということか!

3 2 1 俺は発射した。それと同時に堪え切れない感情と、血が沸騰してしまうような熱さと────


「アッッッッッッッッツ!!!!!!!!!!痛ええええええ!!!!!!!」
「痛い!!!!!!!!!!!!!熱い!!死んでしまう!!!!!!!!!!!!!!!!」

 本当に熱かった。もう物理的熱さ。その瞬間思わずしまっておいた翼が飛び出した。その衝撃波で壁に飾られた絵が落ちる。空中でキャッチしようとしたその時だった。

「!?つ、翼!!!」
「あれ!!!私翼がある!!!」

 絵は落ちて額縁が割れた。正確にはヒビが入ったくらいだったが。しかしそれどころではなかった。俺とアジラフェルは顔を見合わせる。

「か、顔も赤くないぞ」
「熱くもない!怠さもなくなった!」

 バンザーイ!バンザーイ!と喜ぶアジラフェルをニッコリ笑顔で眺める俺...になんてなるはずがなく、「どうしてだァァァァ!!!!」と叫ぶだけだった。




 その後、俺たちは少し話し合った。何故アジラフェルは天使だったのに、人間のかかるような風邪をひいたのか。

「ひとつは寝不足だったと思う。でも寝不足でこんなに怠くなることはない。だって私は」
「天使だから、だろ?」
「そうだ。そう考えて...思い当たることを思い出した」
「なんだ?」
「ガブリエルに...たしか138年前、『君は仕事のし過ぎだ』って言われたんだ。実際はブラームスの音楽を楽しむのに夢中だっただけなんだけど。その時何か飲みものをもらって、それを...」
「それを?」
「...昨日、飲んだ」
「...」
「い、威力の弱い聖水かと思っていたんだよずっと。だけど、その中に入っていたのはアップルのジュースで...私はそれがとても好きだったから、思わず...」
「...」
「あの頃彼は、何か病原体?のようなものを作るのに熱心だったし、もしかしたら...」
「...」
「それになんかあの頃、ガブリエルはちょっと君みたいな匂いがしていたんだ。もっと臭かったんだけど。死臭みたいな」
「...」
「だからきっと、君の上司の...ベルゼブブと手を組んで、何かやっていたの、かも」
「...」
「多分一日二日でどうにかなったんだろうけど、それが...悪魔のエキスが、倒してくれたんだ」
「...」
「...」
「...まあ、治って良かったな」
「う、うん...!」
「なんて言うと思ったか馬鹿め!!!まずそんな古いものをピクニック前に飲むなそれからクソ上司共...!!!!」
「わああ落ちついて!でも私は元気になったしりんごジュースは飲めたし!」

 ...まあいいか。俺もこいつとキスできたし。へたへたと座り込んでひとつサンドウィッチをつまんだ。やっぱりそれは美味で、俺は安心した。さっきのキスで味覚を持っていかれたと思ったからだ。

「...ねえ!見てよ。空が晴れてきた!快晴だ!」
「サタン様の息子が晴らせたのかもなァ...」
「...君、範囲どれくらいで雨を降らせたの?」
「...適当」
「い、異常気象になってしまうじゃあないか!」
「まあいいだろう!それよりもほら、さっさと行くぞ」
「どこに?」
「どこにってそりゃあ...当初の予定通り?」
「ピクニック!」


 残ったサンドウィッチを持って、俺は行く予定だった公園にヴィンテージ・カーを走らせた。さっきのキスなんて無かったみたいに、アジラフェルは桃色のほどほどに厚い唇でJe te veuxを吹いていた。酷いもんだね全く。今このタイミングでこんな歌を吹くんだからさ。

「ねえクロウリー」

 口笛を止めてアジラフェルは俺に呼びかける。

「どうした」
「ん、いや...呼んでみただけって言ったら、君怒るかな?」
「.........」
「あっ!ごめんよ!あとでアイスクリームを奢るから許して!」
「............フン!」

 まあ良い。まだ良い。これからの何億年かの平和な毎日を享受していこうではないか。キスは...したいけど、しばらく勘弁したいが。


 アジラフェルは無邪気に笑った。俺も満更でもないように、思わず笑ってしまった。

















































やってしまったと思った。高鳴る心音をクレバーな彼が良く気づかなかった。


 さっきのキスから心臓が激しく動いて止まない。ああもう、なんだって私はあんなことを言ったんだ。彼が教会で私を助けてくれた1941年のあの日から...私は天使が抱いてはいけないような感情を持て余している。

 私はクロウリーがどうやら好きらしい。それも愛している。酷い話だ。誰も笑ってはくれない。そんな無様な恋を天使がしてしまって、本当にその内堕天してしまいそうな気がする。今だってそうだ。感情が溢れ返ってしまって、思わずJe te veuxなんて吹いてしまった。何故今?と、きっと彼も思っているだろう。こんな情熱的な曲をいきなり?とも。もしかしてアジラフェルは俺のこと...なんて、思われなければ良いが。困ってしまうだろう、天使に愛されているとわかったら。しかも親友の私に。仮に私たちが人間だったとしても難しい。クロウリーはとってもクールでワイルドでスマートで、私はぽっちゃりで意気地無しでやるべきことができないダメな奴だ。性別が同じでも違くても、彼は私を選んではくれない。私には魅力がない。


「ねえクロウリー」

 恥ずかしい口笛を止めて、なんでもないように彼に呼びかける。心臓はバクバクとさっきよりもうるさくなっている。

「どうした」
「ん、いや...呼んでみただけって言ったら、君怒るかな?」
「.........」
「あっ!ごめんよ!あとでアイスクリームを奢るから許して!」
「............フン!」

 よかった。私の想いに気づいていないみたいだし、機嫌もとても良さそうだ。思わず私は笑う。クロウリーも少しはにかんでくれた。











Je te veux:お前が欲しい



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アジたんが私の織姫だと思ったけど、クロさんがいたから私は天の川の水の原子の一部になってふたりを会わせるよ


2020.07.09.

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